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GIGAスクールで変わった情報リテラシーの学びと課題とは

GIGAスクールで変わった情報リテラシーの学びと課題とは

2023年05月19日掲載(2023年11月06日更新)
※ 記載された情報は、掲載日現在のものです。

探究的な学びとは?効果的な学びのプロセスから考える

はじめに

2019年度にスタートしたGIGAスクール構想。全国の小・中学生の一人ひとりに情報端末が提供され、コロナ禍においてはリモート授業の実施など活用が加速したのは記憶に新しいところではないでしょうか。その一方で、子どもたちの使い方、情報リテラシー教育においてもさまざまな課題が浮き彫りとなってきました。この記事では、株式会社ラックの研究部門のひとつICT利用環境啓発支援室(以下、当室)が携わってきた学校現場におけるICTの賢い使い方や、使い手としての情報リテラシーやセキュリティ意識の醸成などの啓発活動事例を紹介したいと思います。

執筆協力
会社名:株式会社ラック
設 立:2007年10月1日
H P: https://www.lac.co.jp/
紹介文:セキュリティ対策のリーディングカンパニーとして、大手企業・官公庁向けに、コンサルティング、診断、監視、運用のほか、その基盤となるシステム開発などのサービスを高い技術力を持つエンジニアによって提供しています。

目次

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37種類にものぼる多様なネットトラブル、その中身とは?

当室では年間で約150件(直近3年間の平均)の情報リテラシー啓発講座を実施しています。講座の内容(テーマ)は、長年にわたる研究活動を通じて整理されたインターネットトラブルの事例をベースとしています。あまり知られていないことですが、インターネットトラブルの種類は実に多様で、なんと37種類(図1)もあるのです。講座の依頼を受けると、この事例のなかから、学校の事情や受講者の年齢層に応じて講座内容を構成します。この分類は、当室が発行する「情報リテラシー啓発のための羅針盤」という教材にも収録されおり、詳しくはそちらをご参照いただけたらと思います。

図1:情報リテラシー啓発のための羅針盤(本編)に掲載の37種類のインシデント

図1:情報リテラシー啓発のための羅針盤(本編)に掲載の37種類のインシデント

また、当室では学校現場の関心やニーズを把握するために、対象の小中学校において、講座の実施前に「37種類の中からどのテーマを希望しますか?」というアンケートをとっています。その結果から、この3年間において学校が抱えている課題が見えてきました。

GIGAスクール教育現場の関心事ランキング、上位に入ったのは?

アンケートを集計した結果、講座で話してほしいと依頼されたテーマのランキングは、1位に「ネット依存」、2位に「ネットいじめ・ハラスメント」、3位に「健康被害」、4位以降に「誹謗中傷や不適切投稿・SNS等に起因する犯罪被害」となりました。(図2)

図2:情報リテラシー講座で依頼されたテーマのランキング

図2:情報リテラシー講座で依頼されたテーマのランキング

その理由として考えられるのはどんなことしょうか?
コロナ禍で外出や他者との接触の自粛を強いられた3年間、皆さんの経験からも実感できるように、子どもたちのスマホやタブレット、ゲームなどの利用時間が極端に増えています。ネットにコミュニケーションや安心を求め、動画やSNS、ゲームなどで気持ちを紛らわすなど、利便性だけでなく精神的な依存をしてしまう状況がありました。これが1位の「ネット依存」、3位の「健康被害」というテーマが上位になった要因ではないかと考えられます。また、小中学校におけるGIGAスクール構想の普及拡大の時期が重なり、チャットを使った「いじめ」や「いたずら」が社会で多数発生したことも、このランキングに反映されているようです。

一方で、セキュリティに関する項目、例えば「不十分なID/パスワードの取り扱い」や「ウイルス(マルウェア)感染」などについてはランキングには現れず、リクエストもごく少数となっています。アカウントを守るというデジタル化された社会生活においてとても重要なことについて優先度が低くなってしまう状況は、私たちが啓発を行う上で大きな課題だと言えます。
しかし、40-50分程度の授業時間の中で取り扱える内容は限られています。インターネットや情報を扱う上で重要なセキュリティに関わる事項を知ってもらうために、伝える側としての工夫も必要なのだと実感しています。

学校における実際のセキュリティ対策・リテラシー向上教育ってどんなもの?

では、実際にどんな内容で講座を行っているのでしょうか?今回はその事例を2つほど紹介し、情報リテラシー教育のより具体的なイメージを持っていただけるよう解説したいと思います。

【事例①】長崎県におけるサイバーセキュリティボランティア育成支援

<取り組み内容>
長崎県では、県内の高校生、高専生らが、小・中学生に対して情報モラル・リテラシー講座を実施する取り組みが行われています。これは長崎県警察本部が「長崎県サイバーセキュリティに関する相互協定」にもとづき主導するものです。協定メンバーである当社は、講師となる高校生、高専生ボランティアに対して、教材の提供と研修を行なっています。

<ポイント>
生徒・学生は講師として教える立場になることで、自分達の世代がインターネット利用において直面している問題や学ぶべき事柄に気づくことができます。また、受講者にとって年齢の近い高校生から聞く情報モラルやリテラシーの話には、とてもリアリティがあり、小・中学生のより「深い学び」の機会となっています。また、受講者が将来高校生になったとき、自らもボランティアとして活動し社会貢献していこうという動機付けにもなり、好循環を生み出すことができます。さらに将来的に、ボランティアを経験した高校生が成人して自分が「保護者」となったとき、教えるという深い学びを得た経験を活かし、子どもたちがインターネットトラブルを避け、適切な情報リテラシーを身につけるための家庭教育ができるようになることも期待できると考えます。

【事例②】浜松市立佐久間中学校におけるSTEM教育支援

  • ※ STEM教育:科学(Science)・技術(Technology)・工学(Engineering)・数学(Mathematics)の分野に重点をおいて、考える力や問題解決力を養う教育モデルのこと。

<取り組み内容>
浜松市天竜区という中山間地域にある浜松市立佐久間中学校で、ICTを活用した学習を支援しています。「総合」という科目の学習において「地域の課題を解決する」というテーマがあり、地域の情報を発信するための動画制作講座や、地域のファンを増やすためのマーケティング講座を実施しています。

<ポイント>
子どもたちが強い関心を抱く、動画制作を入口とし、インターネットやコンピューターを活用した情報発信をする際に不可欠な、情報モラルやリテラシーについて学ぶという「対話的」なカリキュラムにしています。それによって、不用意な情報発信によるトラブルを未然に防ぐだけでなく、生徒自身が「主体的」に情報や情報機器を「安全に活用」しようという意識が向上し、「深い学び」へとつながっていきます。結果的に講座の目的を達成するために必要な、適切な情報リテラシーを身につけられるという狙いがあります。

教材を使って、明日から始めてみませんか?

情報モラルやセキュリティ講座や授業は、ネットトラブルに関しては専門家ではないので自分ではできないと考えていらっしゃいませんか?
当室が発行する、「情報リテラシー啓発のための羅針盤」には、情報リテラシーの講座に必要な最新の情報が網羅されています。
37種類のインターネットトラブルを解説する「本編」、情報リテラシー啓発講座で使えるサンプルスライドを掲載した「参考スライド集」をご覧いただければ、情報リテラシー教育の内容を全体的に把握することが可能です。
さらに、ICTを利用する場面に焦点をあてた「情報活用編」、そして使い方を提案する「使い方ガイド」では、実際に授業を行う際に参考となる情報や、課題とするテーマ別の講座実践例も掲載されています。ぜひ、これらを参考に、学校や公民館などの地域の集まりで、情報リテラシー講座や授業を行なってみてください。自分の周辺から、世の中を少しずつ安全に快適にする取り組みに、ぜひ参加していただけたらと思います。

図3:情報リテラシー啓発のための羅針盤シリーズ

図3:情報リテラシー啓発のための羅針盤シリーズ

まとめ

我々は日々、安心安全にICT環境を利用していただくことを目的に研究活動を行なっています。これからの子どもたちが迎えようとしているデジタル社会においては注意喚起やトラブル防止だけでなく、より主体的にICTを活用できるようになるための講座や情報提供が必要だと考えています。「安心安全」と「活用」の両輪で児童・生徒・学生、そしてあらゆる世代が社会の一員としてICTを利用して活躍できるように支援してまいります。

KDDI まとめてオフィスでは、KDDIが長年培ってきた高品質でセキュアな通信を軸に、教育現場で役立つソリューションを提供しています。通信環境の整備から、ICT教育に必要なタブレット・パソコンなどの端末や教材も、ワンストップでご提供可能です。
また、導入後の活用についての積極的なサポートや、教員のみなさまを対象にしたセミナーや研修なども実施しております。ICT導入や運用についてお悩みの方は、お気軽にご相談ください。

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