
近年、教育現場ではタブレットやオンライン教材にとどまらず、生成AIの導入に注目が集まっています。「子どもが自分で考える力を失うのでは?」といった不安がある一方で、「AIと対話しながら探究的な学びができる」「教員の業務負担を軽減できる」などの期待も広がっています。
当記事では、教育現場における生成AI導入のメリットとデメリットを整理し、国内の具体的な実践事例を紹介します。導入を検討する教育関係者の方にとって、生成AI活用の方向性を考える判断材料となる内容になっていますので、ぜひご一読ください。
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1. 生成AIの普及と学校・教育現場への活用

生成AIとは、学習したデータをもとにテキストや画像、音声、動画などのコンテンツを新たに生み出す人工知能です。近年では、ChatGPTやDALL-Eといった生成AIサービスが世界中で注目を集め、医療・金融・自動車など多くの業界で導入が進んでいます。
教育分野においても、GIGAスクール構想によるICT環境の整備が進んだことを背景に、教員の業務負担軽減や、学習の多様化といったニーズが高まり、学校教育現場での生成AI活用が徐々に広がっています。
2. 文部科学省は生成AIの活用に関するガイドラインを作成
生成AIの急速な普及を背景に、文部科学省は2023年7月、「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン(Ver.1.0)」を公表しました。そして2024年12月に「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン(Ver.2.0)」が発表され、学校現場における生成AIの利活用に関する基本方針と実務上の留意点が示されました。
Ver.2.0では、人間中心の利活用の原則、著作権・個人情報保護の対策、教職員・児童生徒向けの具体的な活用場面やチェックリスト、先行事例の紹介などが盛り込まれています。
出典:文部科学省「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」/
出典:文部科学省「初等中等教育段階における生成 AI の利活用に関するガイドライン」
3. 生成AIを学校・教育現場に導入するメリット

生成AIを教育現場に導入することで、生徒の思考力や学習意欲の向上、個別最適な学びの実現、そして教師の業務負担の軽減など、教育の質と効率化の両面で多くのメリットをもたらします。ここからは、生成AIを学校に導入するメリットについて詳しく説明します。
3-1. 思考力や問題解決能力が向上する
生成AIにより、生徒に多様な視点や選択肢を提供することで、自らの考えを深めるきっかけを与えられます。たとえば、対話型生成AIを活用した探究学習では、生徒が仮説を立て、生成AIの回答を検証しながら、自らの考えを再構築するプロセスが生まれます。
生成AIが提示する異なる解決策やヒントに触れることで、従来の発想にとらわれない柔軟な思考が促され、問題解決能力の向上につながります。さらに、生徒の回答を生成AIが分析し、足りない視点を補完することで、思考をより深めるサポートも可能です。
3-2. 学習意欲を高める
生成AIを活用することで、生徒一人ひとりの学習履歴や理解度に応じた個別のフィードバックが可能になります。これにより、生徒は自身の課題に的確に取り組むことができ、成功体験を積む機会が増えることで、学習に対する不安の軽減や苦手意識の払拭につながります。
さらに、生成AIは対話形式でクリエイティブな問題や学習ゲームを提示することもできます。生徒の関心や興味を引き出しやすくなり、主体的な学びを後押しする要素となるでしょう。
3-3. 自分で真偽を考える力が身に付く
生成AIの回答は、必ずしも事実に基づいているとは限りません。そのため、生徒は生成AIの提示する情報を鵜呑みにせず、「本当に正しいのか」「他に可能性はないか」といった視点で、自ら判断する力が求められます。
また、生成AIとの対話を通じて自分の意見を構築する過程では、論理的な思考の積み重ねが求められます。これにより、情報の真偽を自分で見極める力を伸ばせるだけでなく、批判的思考力や情報リテラシーも自然に育まれます。
3-4. 教師の負担軽減につながる
生成AIは、教材作成やテストの問題作成、記述式答案の採点補助といった定型業務を自動化でき、教師の業務負担を大きく軽減します。たとえば、生徒一人ひとりの理解度や進度に応じた教材をAIで自動生成することで、授業の準備にかかる時間を短縮できます。
また、採点業務では生成AIが一定の基準で迅速かつ一貫した評価を行い、ばらつきのない公正な採点を支援します。その結果、教師は授業準備や生徒対応などの教育活動に集中できる環境が整います。
4. 生成AIを学校・教育現場に導入するデメリット
生成AIには多くのメリットがある一方で、教育現場への導入時においては慎重な検討が必要です。ここでは、学校における生成AIの主なデメリットや懸念点を解説します。
4-1. 主体性がなくなる可能性がある
生成AIを学習に活用すると、生徒が自ら考える機会が減少する可能性があります。たとえば、生成AIが提示する回答をそのまま受け入れ、考察や調査を行わずに済ませると、主体的な学びの姿勢が損なわれる恐れがあります。
また、生成AIが導く最適解に頼ることで、生徒自身が失敗を通じて学ぶ機会や思考錯誤の経験が不足し、思考力や創造力の育成にも悪影響を及ぼす懸念があります。こうした事態を防ぐためには、生成AIの使用範囲や方法を適切にガイドするルールの整備が必要です。
4-2. ハルシネーションによる問題が発生する恐れがある

生成AIは、あたかも正確で信頼性があるかのように見える情報を出力する一方で、実際には事実に基づかない誤情報(ハルシネーション)を含む場合があります。教育現場で誤情報をそのまま使用してしまうと、生徒が間違った知識を正しいと誤解する可能性があります。
特に、学習段階にある児童生徒にとって、生成AIの回答を「正しい」と思い込む傾向が根強く、情報の真偽を自ら見極める力が育つ前に誤情報を鵜呑みにしてしまうリスクがあります。生成AIを利用する際は、ファクトチェックの徹底や情報リテラシー教育の強化が不可欠です。
4-3. 生成AIの思考プロセスが分からない
生成AIは膨大なデータに基づいて出力を行いますが、その思考プロセスは人間には見えにくく、ブラックボックスのような性質を持っています。教員が生成AIを授業や業務に活用する際、その回答の根拠が不明確だと、なぜそのような回答や評価になったのかを教員が説明できず、指導に支障をきたす可能性があります。生徒が生成AIを使用する際も同様で、生成AIで結果や結論は得られても、そこに至った思考プロセスまでは完全に把握できません。
また、同じ内容でもアップデートやAIモデルの違いにより、回答結果が変わることもあり、これによって教育における一貫性や公平性を損なうリスクも存在します。生成AIの活用にあたっては、判断根拠の不透明さを理解した上で慎重に運用する必要があります。
4-4. 教師データの蓄積が必要になる
生成AIを効果的に教育現場で利用するには、前提として、生成AIの学習用に大量の教師データの蓄積が不可欠です。たとえば、AIによる採点支援や個別に最適化された教材の提供にあたっては、過去のテスト結果や授業記録、採点基準といったデータを継続的に収集し、更新する必要があります。
しかし、データ収集作業は時間的にも労力的にも、教員にとって大きな負担となります。また、データの質や量が不十分であれば、生成AIの精度が期待通りに向上せず、導入効果が限定的になる可能性があります。
5. 生成AIを学校・教育現場に導入した事例
文部科学省は、生成AIの適切な利活用を推進するため、ガイドラインに基づいて先導的に取り組む「パイロット校」を指定しています。ここでは、令和5年度生成AIパイロット校として指定された学校の、具体的な導入事例を紹介します。
出典:文部科学省「初等中等教育段階における生成AIに関するこれまでの取組み」
5-1. 大阪市立高殿小学校の事例
大阪市立高殿小学校では、情報モラル教育の一環として生成AIに関する授業を実施しました。授業では、まずAIの基本的な知識を確認し、生成AIが作成した記事と実際のニュース記事を比較する活動を行いました。その上で、児童が今後どのようにAIを活用していきたいか、自らの考えをまとめる時間を設けました。
児童からは「インターネットの情報をすぐに信じるのではなく、さまざまな資料と照らしあわせたり自分の経験をもとに考えることが大切だと感じた」といった意見が出ました。
5-2. 茨城県つくば市立学園の森義務教育学校の事例
茨城県つくば市立学園の森義務教育学校では、グループでの話し合いを通じて問題を検討する学習活動に生成AIを取り入れました。生徒たちは各グループで設定した課題について意見を交わした上で、生成AIから新たな視点やアドバイスを得ながら議論を深めていきました。
生成AIの提案を一方的に受け入れるのではなく、自分たちの意見と照らしあわせて再検討を重ね、最終的な結論を導き出す姿が見られました。
5-3. 鹿児島県立鹿児島玉龍高等学校の事例
鹿児島県立鹿児島玉龍高等学校では、美術科の授業に生成AIを活用し、発想力を高める取り組みが行われました。生徒はまず何も参考にせずにスケッチを描いた後、生成AIを使って複数の画像パターンを作成し、それを参考に構図をアレンジして作品を仕上げました。
生成AIが提示する予想外のイメージに触れることで、自分では思いつかなかった発想が生まれ、表現の幅を広げるきっかけになっています。
まとめ
生成AIの教育現場への導入には、学習意欲や探究力の向上、教育者の業務効率化といった多くのメリットがあります。一方で、生成AI任せにすることで主体性が失われたり、誤情報による混乱が生じたりするリスクは無視できません。
実際の活用場面では、生成AIを「答えを教える存在」ではなく「考えるきっかけを与えるツール」として位置付け、教師や生徒が適切に使いこなすことが求められるでしょう。導入に際しては、文部科学省のガイドラインを参考にしながら、運用ルールや活用目的を明確にすることが必要です。
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