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教育現場へのAI活用事例6選|取り入れるメリットや成功のコツも!

教育現場へのAI活用事例6選|取り入れるメリットや成功のコツも!

2025年09月26日掲載
※ 記載された情報は、掲載日現在のものです。
教育現場へのAI活用事例、メリットや成功のコツを紹介

現在の教育現場は、少子化や教員の長時間労働といった構造的な課題を抱えています。生徒数の減少に伴う学校の統廃合や地域格差の拡大に加え、教員にはICT化への対応やより多様化している保護者への対応など、多岐にわたる業務が求められるようになりました。こうした状況の中で注目されているのが、生成AIをはじめとする人工知能の活用です。

AIを教育現場に導入することで、生徒一人ひとりに応じた最適な学習支援が可能になり、教員の業務効率化や指導の質の向上にもつながると期待されています。しかし、導入にあたってはいくつかの懸念や課題も存在します。

当記事では、教育現場でのAI活用について、メリット・デメリットや実際の導入事例、成功のポイントなどを総合的に解説します。

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1. 教育現場が直面している課題とは?

少子化の進行/教師の長時間労働

現在の教育現場では、少子化の進行と教員の長時間労働という二大課題が深刻化しています。日本では急速な少子高齢化が進んでおり、生徒数の減少により学校の統廃合や地域格差が生まれています。生徒が減る一方で、教育内容の多様化や保護者対応、ICT活用など、教員の業務はむしろ増加傾向にあります。

文部科学省の「教員勤務実態調査(令和4年度速報値)」によれば、教諭の1日あたりの在校等時間は小学校・中学校ともに10時間を超えており、法定労働時間の8時間を大きく上回っています。平成28年度と比べて30分程度は短縮されたものの、依然として過重労働の状態が続いています。

教員勤務実態調査(令和4年度速報値)

出典:文部科学省「教員勤務実態調査(令和4年度)の集計(速報値)について」

こうした労働環境の影響もあってか、教員の志望者は減少傾向にあり、教員採用試験の倍率も低下が続いています。教育の質を維持するには、教員の働き方を抜本的に見直す必要があります。

2. 教育にAIを取り入れるメリット

個々に応じた学習/教師の業務効率化

教育にAIを導入する最大の利点は、生徒一人ひとりに最適化された学習支援が可能になる点です。AIは過去の学習履歴や解答傾向を分析し、理解度に応じた問題を出せるので、苦手克服や学習意欲の向上につながります。また、成績評価にAIを活用すれば、主観の入りにくい公平な分析が行え、生徒は自身の学力を的確に把握できます。また、探究的な学びや国際理解教育など、従来の枠を超えた新しい学習体験の創出にもつながる可能性があります。

一方、教員にとっては業務効率化の効果が期待できます。教材作成や成績管理、指導案の作成などをAIが補助することで、教員が本来注力すべき授業や生徒対応に時間を割けるようになります。教育へのAIの導入は、こうした業務支援の目的から段階的に検討されるケースが多くあります。

3. 教育にAIを取り入れるデメリット

AIの活用には多くの利点がありますが、一方で慎重な対応が求められる課題も存在します。まず、AIを効果的に運用するためには、大量かつ多様な「教師データ」が必要です。データが偏っていたり不足していたりすると、AIの判断や分析の精度が大きく低下してしまいます。

また、生成AIを過度に頼ることで、生徒が自ら考える機会を失い、主体的な学びの姿勢が弱まる可能性も懸念されています。さらに、AIによる自動化が進むと一部の業務が不要となり、教育現場における雇用の減少につながる懸念もあります。

教育にAIを取り入れる際は、AIの特性を正しく理解し、適切な範囲での活用を心がけることが大切です。教育の質を維持・向上させるためには、「人とAIの役割分担」を明確にした運用が必要です。

※ 教師データとは、AI(人工知能)が学習するための「問題」と「正解」がセットになったデータのことを指します。主に、「教師あり学習」と呼ばれる機械学習の手法で用いられます。

4. AIを教育現場で活用するやり方は?実践事例とともに解説

教育現場でAIの導入が少しずつ広がっているとは言え、「具体的にどのように導入されているのか」「どのような効果があったのか」と疑問を持つ方もまだ多いのではないでしょうか。ここでは、国内の学校や教育委員会によるAI活用の実践事例を紹介し、導入の方法や成果、工夫点について解説します。

4-1. 学校法人野田学園様の事例

山口県の私立校・野田学園では、ICTを活用したアクティブラーニングに早くから取り組み、高校生にはChromebook、中学生にはiPadを1人1台整備しています。文部科学省のDXハイスクール事業に採択されたことを機に、生成AIを導入し、教員向けの研修も実施しました。AIは指導案や行事案内の作成、志望理由書の添削など、教員の業務効率化に活用されています。

当初は導入に不安を抱える教員もいましたが、現場の教員が講師を務めた実践的な研修により理解が深まり、活用が定着しました。生成AIは「思考の補助ツール」として位置付けられ、生徒の進路支援や個別学習の最適化にも今後の活用が期待されています。

出典:ミカサ商事株式会社「【学校法人野田学園】教育現場での生成AI活用事例 - DXハイスクールの補助金を利用した生成AI導入」

4-2. 近畿大学附属高等学校様の事例

近畿大学附属高等学校では、2013年から1人1台のiPadを導入し、ICT活用を先進的に進めてきました。生成AIをいち早く授業や校務に導入し、教材作成や案内文の下書き、推薦文の添削支援などに活用することで、教員の業務負担軽減と質の高い指導の両立を実現しました。

生徒には探究活動や創作活動において、生成AIを「アシスタント」として使うことを推奨し、自主的な学びを支援しています。AIとの協働を通じて、生徒が知識を「使う側」に成長することを目指した実践が進んでいます。

出典:Impress「生成AIは児童生徒と先生のパートナー! 授業効率化と探究心を育む私立小中高3校の最新事例と成果レポート」

4-3. クラーク高等学院札幌大通校様の事例

クラーク高等学院札幌大通校では、生徒の「好き」や「得意」を伸ばす個別最適な学びを重視し、英語教育に生成AIを活用しています。英作文の授業では、前半で生徒がAIから文法や語彙、構成に関する助言を受けながら個別に作文に取り組み、後半は生徒同士の意見交換を通じて理解を深める協働学習が行われています。

AIを活用することで、いつでもフィードバックを得られ、生徒は自然な表現やミスに自ら気づけるようになったと好評です。「英検対策にも使える」「表現の幅が広がる」といった声があり、主体的な学習姿勢の育成にもつながっています。

出典:スクールAI「クラーク高等学院札幌大通校様 導入事例」

4-4. 茨城県立竜ヶ崎第一高等学校様の事例

茨城県立竜ヶ崎第一高等学校では、情報科の授業でPythonによるデスクトップアプリの作成に取り組み、生成AIを活用してプログラミングの支援を行いました。生徒はプロンプトの工夫を重ねながら、目的に合ったコードを生成し、自らの手で完成させる経験を積みました。

「自分では書けないコードを見て学べた」「例がすぐ出て理解しやすかった」といった声があり、生成AIが学びの補助教材として機能していることが分かります。本校は文部科学省の生成AIパイロット校として指定されており、AIとの協働によるプログラミング教育の可能性を広げています。

出典:文部科学省「初等中等教育段階における生成AIに関するこれまでの取組み」

4-5. 千代田区立九段中等教育学校様の事例

千代田区立九段中等教育学校では、国語(漢文)の授業に画像生成AIを取り入れ、老子が説く理想国家の世界観を視覚的に表現する学習を実施しました。抽象的な概念も、生徒がAIを活用して画像化することで、内容の理解が深まりました。

従来は捉えづらかった思想や時代背景を、具体的なビジュアルで可視化できたことにより、学習効果が高まります。難解な文章に対する想像力や読解力の向上に、画像生成AIが有効な補助ツールとして機能しています。

出典:文部科学省「初等中等教育段階における 生成AIに関するこれまでの取組み」

4-6. 高知県教育委員会小中学校課の事例

高知県教育委員会では、AIデジタルドリルを活用した基礎学力の定着に向けた取組を進めています。県内6地域・17校を対象とした実証研究事業を実施し、授業や補習、家庭学習における効果的な活用方法を検証しました。児童生徒一人ひとりの理解度に応じた学習支援が可能となり、家庭学習の習慣化や学力向上に寄与しています。

また、スタディログ(学習履歴)を集約・分析し、教員がそのデータをもとに声かけや指導改善を行うことで、生徒の不安感軽減や主体的な学びの促進にも成果が見られました。自治体ぐるみでAIを活用した学習支援のモデル構築が進んでいます。

出典:高知県「デジタル技術を日常的に活用した学習スタイルの展開について」

出典:高知県「令和6年度当初予算案の概要」

5. 学校・教育現場でAI活用を成功させるコツ

AIを教育の質を高めるパートナーとして活用することが重要

教育現場で生成AIを効果的に活用するには、技術の導入だけでなく、運用面での工夫や慎重な設計が欠かせません。まず大切なのは、使用する教員に対して適切なトレーニングを行うことです。基本的な操作方法に加え、教育現場での応用例や倫理的な使用ルールも理解してもらうことで、AIを安全かつ有効に活用できるようになります。

また、AI導入の効果は一度で完結するものではなく、生徒の学習成果や教員の業務改善への影響を定期的に確認し、必要に応じて調整していくことが求められます。使用実態や成果のデータを活用しながら、現場の声を反映させていく姿勢が成功につながります。

教員間での情報共有や連携体制の構築も成功のポイントです。先行して取り組んだ教員の知見を共有すると、校内全体の理解と活用が進みます。さらに、保護者への丁寧な説明と合意形成も欠かせません。生成AIの特性や活用目的を正しく伝えれば、不安の軽減や家庭との連携にもつながります。

これらのポイントを踏まえ、AIを単なるツールとしてではなく、教育の質を高めるパートナーとして捉えることが、成功への第一歩です。

まとめ

生成AIをはじめとする人工知能は、教育現場に新たな可能性をもたらしています。AIを通じた個別最適な学習支援や、教員の業務負担軽減、探究的な学びの創出など、実際に多くの学校・教育機関で成果が上がり始めています。

AIを教育の中にうまく取り込むためには、技術の導入だけでなく、人とAIの役割分担を明確にし、協働によって教育の質を向上させる視点が求められます。今後も実践事例を参考にしながら、教育現場におけるより良いAI活用を模索していくことが大切です。

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