【パネルディスカッション編】「まなびのミライ~学校交流会2025~」開催レポート
2025年8月1日、「まなびのミライ~学校交流会2025~」を開催した。第4回目の開催となる今年度は「未来をつなぐICTと学校づくり」をテーマに実施。全国から70校86名の教職員の皆さまにご参加いただき、大変盛況な会となった。
当日のコンテンツ内容から「特別講演」「生徒講演」「パネルディスカッション」を抜粋してお届けする。
パネルディスカッション編では、「生徒の主体性とICT:~今求められている学校づくりとは何か、新しい学校の形を探る~」をテーマに実施したディスカッション内容を紹介する。
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生徒の主体性とICT:~今求められている学校づくりとは何か、新しい学校の形を探る~
特別講演、生徒講演のあとには、講演でも登場した教員の方々をパネリストに招きパネルディスカッションが開催された。テーマは、「生徒の主体性とICT~今求められている学校づくりとは何か、新しい学校の形を探る~」。モデレーターおよびパネリストとして以下の4名が登壇した。
<モデレータープロフィール>
日本大学三島高等学校・中学校
教頭
大川 幸祐 氏
<パネリストプロフィール>
学校法人堀井学園
学校法人白馬インターナショナルスクール
理事
堀井 章子 氏
瀧野川女子学園中学高等学校
副校長
山口 龍介 氏
横浜女学院中学校 高等学校
副教頭
鈴木 俊典 氏
なぜ、生徒の主体性が重要と考えているか
中学・高校時代の経験が主体性につながると話す山口氏
はじめに「なぜ、生徒の主体性が重要と考えているか」という問いがスライドに写されると、大川氏は「そもそも主体性とは何か」とパネリストに話を振った。
鈴木氏は「答えのある問いを投げかけるだけでは主体性は生まれない」としたうえで、生徒講演でも発表のあったブータンでのスタディツアーの狙いについて語った。「現地でさまざまな景色を見てもらうことはもちろん、帰国後に『Assembly』という月に1回開催している全校集会での発表を大事にしている。活動内容を発表することで、発表者自身にどういう学びがあったのかをメタ認知する機会になる」と話した。
次に、2009年まで博士課程で、ロボット創造学で世界トップ級の研究室に在籍していた山口氏は「大学院で教員側の立場になったときに主体性、つまり好きなことに挑戦する大切さをすごく意識した」と発言。
山口氏は、日本の学生だけでなく海外トップ大学からの留学生も多数見てきた経験から「日本の学生には試験勉強は得意でも『好きなことをやる』ができない学生も多い」と指摘した。
「好きでやっている学生は、国籍に関係なく、とにかく猛烈に研究する。それができる学生とできない学生の違いは、中学・高校までの経験の差による」のだという。
しかし、教員目線では中学・高校ではやるべきことが多く時間が足りないと言及し、「だからこそICTで効率化して空いた時間を作り、そこで好きなことをやる」ことが重要だと語った。
堀井氏は2校の生徒講演について触れ、「事業化実習やブータンでの経験がまさに、Deep Experience※そのものだ」と話し、生徒たちの主体性を目の当たりにしたと述べた。
※ 環境思想「Deep Ecology」における3つの要素の1つ。堀井氏は教育的視点からこれを「自分だけの経験」と解釈し、それを認識することが内発的動機につながるとしている。
生徒発表の取り組みについて、先生の視点から主体性を引き出すために意識したことは?
続いて、「生徒発表の取り組みについて、先生の視点から主体性を引き出すために意識したことは?」というお題に移ると、山口氏は「先生がファシリテーターになり、ここでは自由に発言していいんだと思わせてあげるのが大事」と話す。発散させるときは思う存分やらせて、そこから収束させる際にうまくアドバイスを挟むのがコツだといい、「先生がファシリテーターに入っていると思わせないのが成功ですね」と笑った。
一方、鈴木氏は「コンテンツ、コラボレーション、チョイスの『3つのC』を大事にしている」と話す。「コンテンツは本質的なものの提供、コラボレーションは必要なときに必要な手助けをすること、チョイスは生徒自身がハンドリングできるものを選ぶこと」だとし、さらに中学1〜2年生時に哲学対話をHRなどで取り入れることで「傾聴力や発言の自由が確保された場を作ることに取り組んでいる」とした。
堀井氏は、自身が率いた研究開発チームのメンバーの発言を紹介。「子どもたちが課題に取り組まないときは主体的に『やりたくない』という気持ちを表しているのだ」と話し、「『これじゃない』と違うものを見つけていくのも大事」と続けた。
これからどのようなことに取り組みたいか
3人の話を受け「一教員として、反省することもたくさんあります」と大川氏が苦笑し、話は次のお題へ。「これから取り組みたいことは?」と山口氏に話を振った。
山口氏は「本校は女子校であることもあり、理系アレルギーのようなものがまだまだ残っている」と課題を吐露。文系・理系と分けることは専門教育にとっては重要だとしたうえで、「文系でも理系でもテクノロジーを使いこなせるようになってほしい。そのためには楽しんで取り組むことが必要不可欠だ」と話した。
「土曜チャレンジ」など自校の取組を紹介する鈴木氏
これを受けて鈴木氏は「土曜チャレンジ」という取り組みを紹介。中学1年生から高校2年生を対象に月に1回開催しているプログラムで、生徒は毎月変わる30以上の講座から興味関心のある講座を選び受講する。講師は卒業生や保護者、大学の先生など各界の専門家が務める。
この取り組みについて鈴木氏は「どこで生徒の火がつくかわからないからこそ、いろいろな手を打ちたい」と話す。また、「生徒にチャレンジしろと言うなら、まずは大人がブレーキをかけずにどんどんチャレンジしていくのも大事」と語った。
「確かに、新しいことへのアレルギーは大人の方がありますよね」と大川氏が頷くと、「先ほどの生徒講演を聞いていても、生徒は日常的にICTを使っていると感じた」と堀井氏も同調した。
続けて、「インターナショナルスクールの子どもたちを見ていても、文房具を使うみたいに日常的にICTを活用していて、それが学びの場で生きている」とした一方、「プロダクトを生産するためのアプリなど、経済活動にまつわるものは教育現場で取り入れにくかった」と自身の経験を述べた。
これに対し、山口氏は「中学・高校は教育機関なので、主目的は能力開発。なんでも実社会と同じものにしなくていい。専門的なものは大学に入ってからやればいいのではないか」と提案。
鈴木氏も同意し、「学校単位で取り入れるのではなく、本校で言えば放課後のゼミ活動など、一部のやりたい生徒たちが取り組むのがよさそう」と話した。
堀井氏は両氏の話を受け「インターナショナルスクールでは全員が同じことに取り組むという環境がほとんどなく、ロボティクス、エンジニアリング、マーケティングなど専門的な授業の中から生徒自身が授業を選択する」とインターナショナルスクールならではの学習形態を説明。インターナショナルスクールと日本の中学・高校の違いに触れつつ、両氏の提案に理解を示していた。
さまざまな活動の中でICTはどのように役立ったか
意見を交わすパネリストの様子
そして、最後のお題へと移る。「さまざまな活動の中でICTはどのように役立ったか」と大川氏が話を振ると、鈴木氏はICT化により時間・空間の制約がなくなったこと、授業において個別最適化が進んだことをメリットとして挙げた。
「理科の先生がクラス全体に一つの課題を出していて、『できた人はMicrosoft Teamsに新しい課題を出しておくね』と声かけをしていた」と実例を紹介し、生徒一人ひとりの進度に合った指導ができるようになったと話した。
山口氏は、2020年度に大学入試改革が行われたことに触れ、「大学側も知識だけで合格できるような入試方法ではダメだと考えていて、面接主体の入試も増えている」と説明。
実際、公募推薦で入学した学生は学力的にも優れていたり、自分から主体的に研究に打ち込んだりといった例が増えているという。こうした大学入試の変化を受けて、「過去問を網羅的にやって大学合格を目指すのではなく、勉強したうえで『何をやるのか』がもっとも大切。インターネットで調べてすぐに答えが分かることを覚える必要はないから、授業の無駄を省くことも必要。そうすれば本当にやりたい授業ができる」と力を込めた。
「主体性がないと進む方向が見出せないということですね」と大川氏が同調すると、「でも、主体性を発揮する子を育てると宿題やらないんですよ」と堀井氏。「努力は天才を凌駕する、だが努力は夢中に勝てない」という言葉を紹介し、とある一人の生徒について話し出した。「ウミウシが大好きな中学生の子がいて、将来はウミウシの研究をしたいと言っています。その熱量がすごくて、英語の論文が読めるようになったし、泳げないから練習してダイビングのライセンスを取ると意気込んでいる」。ただ、その生徒は宿題はやらないそうだが、「それでいいと思う。社会が求めている人というのはそういう人なのではないか」と語った。
パネリスト3人のさまざまな意見を聞き、「このテーマに結論は出ないけれど、教員としてのあり方が変わってきているのかもしれない」と大川氏。「子どもたちはごく普通にICTを活用しているからこそ、大人がブレーキをかけてはいけない。教員は生徒のよき伴走者になるべきなのでしょう」と結び、パネルディスカッションを締めくくった。
最後に
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