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【広島開催】「地域をつなぐ まなびのミライ in Hiroshima」イベント開催レポート

【広島開催】「地域をつなぐ まなびのミライ in Hiroshima」イベント開催レポート

2025年10月30日掲載
※ 記載された情報は、掲載日現在のものです。

全国5都市を巡り、延べ98校121名もの教職員の皆さまにご参加いただいた「地域をつなぐ まなびのミライ」。その第2回目を、2025年8月19日に広島で開催した。
当日は「中四国の未来をつなぐ 学校DXと"余白"を生み出す働き方改革」をテーマに、講演と実践事例紹介を実施。教育実践につながる新たな知見とネットワークが生まれる実りある会となった。

本記事ではイベント開催レポートとして、一般社団法人iOSコンソーシアム代表理事 野本 竜哉 氏 、愛光中学・高等学校 和田 誠 氏にご登壇いただいた講演および実践事例紹介の様子を抜粋してお届けする。

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講演:校務DX 9つの論点

<登壇者プロフィール>

一般社団法人iOSコンソーシアム 代表理事
EduOps研究所 代表
埼玉県草加市教育委員 野本 竜哉 氏

iOSコンソーシアムHP: https://ios.or.jp/

野本氏はKDDIで教育ICTの導入支援に従事したのち、通信教育のZ会のICT事業部に転職。Z会在籍中にiPad®を使用する学校をサポートする非営利社団法人iOSコンソーシアムを立ち上げ、その代表に就任。

2024年8月にはEduOps研究所を設立し、フリーランスとして情報発信や自治体の研修講師として活動。同年10月からは埼玉県草加市の教育委員としても活動している。

当日使用されたスライド(校務DX9つの論点)の抜粋

野本氏は講演の冒頭で、学校の魅力向上や経営効率化を含む「DXのポイント」として、全9項目の論点を提示した。
しかし、限られた時間で全てを詳細に扱うことが難しいため、講演の参加者に対して二次元コードを用いたアンケートを実施し、投票数の多かったテーマに絞り講演を行った。

探究学習のDX

探究DXの事例について紹介する野本氏

アンケートの結果、最も会場の関心が高かった「探究学習のDX」について野本氏は、このテーマは非常に難しいものと前置きし、「AIが知らない情報を集める力」が今後の探究学習のDX におけるキーワードになると述べた。

野本氏は、すでに生徒たちが生成AIを活用し、共存する時代になったと説明。続けて、GoogleやChatGPTのディープリサーチ※1による情報収集能力の高さを「探究学習への影響を懸念するほどのショックを受けた」と評価しつつも、「AIはWeb上の情報を効率的に収集するが、Webにない情報は生成できない」と指摘した。

※1 ユーザーの指示に基づき、AIが自律的に調査・情報収集・分析、得られた情報を元にしたレポートを作成する機能。

さらに、ディープリサーチ機能を用いても得られない、他人の体験談やリアルな現場の様子、図書室の未電子化書籍といったアナログ情報もまた、探究学習において深い価値を持つと説いた。

また、野本氏は、AIが指導的なアドバイザーとして、教員の手が回らない部分を補う「個別指導教官」の役割を担う可能性に触れた。その一方で、生徒たちがAIの情報を鵜呑みにせず、批判的に捉える力を育むことも、学校の役割であると強調した。

生徒端末活用のDX

続けて、二番目に参加者の関心が高かった「生徒端末活用のDX」の話題に移行。野本氏はこのテーマを語る中で「授業支援システム」「目的準拠のAI活用」という2つの考えを展開した。

前提として自身が経験してきた業務IT環境を説明する野本氏

野本氏は、標準アプリの活用が学校DXの成否を見極めるポイントになるとし、生徒端末活用のDXを進める上で、授業支援システムからの脱却が重要だと説いた。

また、このような考えの背景として、授業支援システムの活用は端末活用につながる一方で、学校DXに消極的な教員たちに「すでに利用しているから十分だ」というネガティブな意識を生じさせ、教員のリテラシー向上を阻害する可能性があると指摘した。

授業支援システムの代替として、社会でも一般的に使われるWord・Excel・PowerPointやそれに準ずる汎用的なアプリを活用することを提案し、これらの活用により、教員の情報リテラシーを育てることで、クリエイティブな資料作成や意思伝達の基盤を築けると語った。クリエイティブな資料作成や意思伝達の基本となると語った。

続けて生徒端末でのAI活用について、リテラシーの重要性を再度強調しつつ、「目的を明確に設定したAI活用」を紹介。

野本氏は獨協大学においてデジタル・ビジネス論の講義を受け持っており、その授業内で「5年間の事業計画」の作成という課題を与えた。その際に、学生にGoogleのNotebook LM※2を活用するよう、推奨したという。

※2 Google製のノート作成・リサーチ支援ツール。ユーザーがアップロードした特定の資料のみを情報源として、AIが要約作成、質疑応答、アイデア出しを行う。

Notebook LMは与えられた資料のみを情報源として回答を生成するため、学生は資料を何度も読み返す手間が格段に軽減され、思考に集中できる環境が整った。結果として、学習効率が向上し、成果を上げることができたと語った。

野本氏はこの事例を踏まえ、最終的なゴールを設定し、適切なAIツールを適切なタイミングで活用するよう導くことで、子どもたちはAIをうまく使いこなし、口頭での説明よりも早く理解を深められるのではないかと分析した。

保護者対応のDX

最後のテーマ「保護者対応のDX」に話題が移ると、初めに保護者へのタイムリーな情報提供が重要であると強調。

用途に分けてAIを使い分けていると語る野本氏

「BLEND」や「tetoru」「すぐーる」といった保護者連絡系ツールを紹介し、教員たちが忙しい校務の中で保護者対応にまで気を遣う難しさに理解を示しながらも、保護者に透明性高く情報を伝達することが重要だと説いた。

続けて、学校と保護者の双方向性の担保にも言及。情報収集にはGoogle FormsやMicrosoft Formsなどのアンケートツールを積極的に活用し、さらに結果の分析・解析にはNotebook LMを活用することが極めて有効だと語った。

野本氏は講演の最後に、校務DXの基盤として「セキュリティ」への理解を深めることの重要性を指摘。
一例として、難解なセキュリティポリシーに関する理解度の課題を挙げ、その解決策として、トラブルを想定しポリシーに基づいた初期対応を判断する実技型の研修「セキュリティ避難訓練」を提案した。
実践的に動くことで理解を深め、改善点の発見やセキュリティ意識の向上につながるこの研修制度を「ぜひパクってほしい」と汎用性を強調しつつ講演を締めくくった。

実践事例紹介:「まなびのミライ」をAIと共に切り拓きましょう

<登壇者プロフィール>

愛光中学・高等学校
ICT推進室長 和田 誠 氏

学校HP: https://www.aiko.ed.jp/

愛光中学・高等学校は1953年創立のカトリック系中高一貫校。2017年度からICT端末の導入を始めるなど、早期から思考力や表現力を伸ばすICT教育を推進する。

和田氏は同校において社会科教諭とICT推進室長を兼任し、ICTを授業や校務に積極的に活用。教育ICTに関連する多数の資格を有しており、ICTやAIの活用によって生まれた「余白」を生徒との対話や授業改善に充てる重要性を説く。

特化型AIを活用した教育の「余白」創出

和田氏による講演ではAIに関する自身の経験をもとに、AIが取り巻く現在の環境の分析、自身が教育現場で活用するAIとその活用事例について語った。

AIに関するアンケートを実施する和田氏

講演の冒頭、和田氏はAIに関連するレポートを引用し、この10年ほどでAIが取り巻く環境が大きく変化したことを指摘。

2013年に公開されたレポート「雇用の未来※3」では、教師やジャーナリストのような職種は経験則からなる深い知識が必要であるため代替リスクが低く、当時は影響を受けにくいと考えられていたが、最新のレポートではAIによる影響を受けやすいという見解に変わってきていると紹介。

※3 米国労働市場における職業がコンピューター化される可能性について分析した英オックスフォード大学機械学習教授マイケル・オズボーン氏によるレポート。

和田氏はこの分析を踏まえ、教育関係者は変化の速さを受け止め、自身の仕事の未来だけでなく、子どもたちが将来就くであろう職業がどうなっていくのかを考えながら教育を進める重要性を強調した。

その後、自身が実際に活用するAIの事例に話題を変え、SunoやFelo、Brisk Teachingといった特化型AIツールをデモンストレーションも交えて紹介。

自身が注目しているという日本発のAI検索・情報整理ツール「Felo」のデモンストレーションでは、プロンプト(AIに与える指示)から授業用のスライドが自動で作成される様子を実演。PowerPoint形式での保存や、デザインツールのCanvaとの連携といった強みを紹介しつつ、Feloを活用することで作業時間を削減し、授業内容や生徒との対話に集中できる「余白」を生み出せると語った。

また、YouTube動画やGoogleドキュメントの内容を分析し、小テストを作成できる教員向けAIアシスタント「Brisk Teaching」のデモンストレーションでは、YouTube動画から高校生向けの小テストを作成。
最終的な調整は教員自身が行う必要があるとしながらも、小テスト作成の労力軽減における実用性を示した。

校務・授業における実践的なAI活用

講演後半へと差し掛かると、和田氏は校務や授業における実践的なAI活用事例を紹介し、教員の校務効率化だけでなく生徒の学習効率化の可能性を示した。

アンケート結果から参加者のAI活用状況を共有する和田氏

まず、和田氏は特化型AIツールが急速な発展を見せていることに触れながら、ChatGPTやGemini、Claudeといった老舗のオールインワン型AIツールもまた発展を見せたと語り、校務におけるAI活用例を紹介。

Googleフォームで収集した自由記述の回答をChatGPTが要約・分析するデモンストレーションから、生徒の意見分析や研修デザイン、保護者からの意見分析など、多岐にわたる校務に対応できるオールインワン型AIの汎用性の高さを改めて示した。

続けて愛光中学・高等学校で実施されたGPTs※4やNotebook LMの活用事例も紹介。
同校ではGPTsやNotebook LMを活用し、保護者からの質問や学校規則などを取り込んだ新任教師向けの模範解答ツールを作成しており、これにより新任教師の研修時間短縮、規則に関する正確な情報提供を実現したと述べた。

※4 GPTs(カスタムGPTs)は、OpenAIのChatGPTに搭載された機能。特定の目的に合わせてカスタマイズされたAIアシスタントを自分で作成・利用できる仕組み。

次に授業におけるAIの活用として、生徒同士の話し合いとAIの分析・対話を組み合わせた「アナログとAIのベストミックス」が重要だと提言。
自身が実施した公民の授業を例に挙げ、生徒たちにグループ議論をさせた後に、教科書の内容を取り込んだAIで分析した結論と生徒の結論を比較させたところ、議論が深化し、生徒たちの授業に対する理解が深まったと説明した。

和田氏はNotebook LMの授業活用についても触れており、情報の正確性が確保されたAIが、教師の授業準備や生徒の学習を効率化する可能性に言及した。
最近になって実装された動画解説機能については、この機能が日本語に対応したときには授業のあり方を見つめなおす必要があると語った。

最後にAI活用によって自身が感じた能力の向上や、すべてを抱え込む義務感、授業や校務への向き合い方 といったマインドの変化を振り返りつつ、参加者に向けて、AIの活用により生まれた業務の「余白」を生徒と向き合う時間に使ってほしいと語り講演を締めくくった。

最後に

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