【大阪開催】「地域をつなぐ まなびのミライ ㏌ Osaka」イベント開催レポート
全国5都市を巡り、延べ98校121名もの教職員の皆さまにご参加いただいた「地域をつなぐ まなびのミライ」。その第3回目を、2025年8月20日に大阪で開催した。
当日は「大阪の未来をつなぐ 生成AIで実現する教育DX」をテーマに、講演と実践事例紹介を実施。教育実践につながる新たな知見とネットワークが生まれる実りある会となった。
本稿ではイベント開催レポートとしてスタディサプリ情報Ⅰ講師 青山学院大学・青山学院中等部講師 安藤 昇 氏、城北中学校・高等学校 校長 清水 団 氏にご登壇いただいた講演および実践事例紹介の様子を抜粋してお届けする。
福岡編・広島編・名古屋編・仙台編のレポート記事もご覧いただけます
【福岡開催】「地域をつなぐ まなびのミライ in Fukuoka」イベント開催レポート
【広島開催】「地域をつなぐ まなびのミライ in Hiroshima」イベント開催レポート
【名古屋開催|講演編】「地域をつなぐ まなびのミライ in Nagoya」イベント開催レポート
【仙台開催】「地域をつなぐ まなびのミライ in Sendai」イベント開催レポート
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講演:生成AIで実現する学校DX 最新AIの活用事例!
<登壇者プロフィール>
スタディサプリ 情報Ⅰ 講師
青山学院大学・青山学院中等部 講師
安藤 昇 氏
青山学院大学・青山学院中等部は、一人ひとりの可能性を引き出し、個性と自主性を伸ばすことを目標としている、幼稚園から大学、大学院まで教育・研究を行う一貫校である。中等部に在籍する生徒数は762名。
安藤 氏は、AIを活用した教育の第一人者であり、GIGAスクール構想の導入におけるエキスパート。ICT技術を活用した最先端の授業は、受講希望者が殺到するほど人気。大学受験講座サイト「スタディサプリ」の「情報I」講師。
驚異的なAIの能力と進化がもたらす未来の教育と社会変革
安藤 昇氏による講演では、AIが教育や日常生活にもたらす革新的な変化に焦点を当て、宿題の解答や音楽、小説、ウェブサイトの作成などが劇的に効率化される様子を強調。今後の社会構造や職業選択に大きな影響を与える可能性についても語られた。
生成AIで作成した動画や音楽を紹介する安藤氏
青山学院では6年前からAI教育に着手し、他校が「AIは危険」「ハルシネーションが問題」といった2年前の議論をしている中で、すでにそのはるか先を行く実践を展開。安藤氏は、その進んだ事例の数々を提示し、現在のAIが持つ能力の高さと、それがもたらす未来の学びの姿を示した。
昨今の生成AIの進化は目覚ましく、安藤氏自身も1週間情報を追わないと時代に取り残されると感じるほどだという。
安藤氏は「最近では、ChatGPT-5のプロモードがIQ148を誇るなど、その知能レベルはメンサ会員を優に超える「天才レベル」に達している。これにより、AIは単なる情報処理ツールを超え、多岐にわたる高度なタスクをこなすことが可能になった」と語った。
その中で、安藤氏は、多くの学校が抱く「AIは嘘をつく(ハルシネーション)」という認識について、有料版AIに限ってはそれがほとんどなく、またAI同士が内容を協議・反省することで、その発生を抑制できると指摘し、認識を改めるべきだと述べた。
また、安藤氏は、AIの進化が社会構造にも大きな変化をもたらし始めていると語った。特にアメリカでは、AIの台頭により、プログラマーなどのホワイトカラーの仕事が大幅に減少。昨年まで年収2,000万円だったプログラマーの需要が急減し、エントリーレベルの仕事(特別な経験や知識を必要としない業務。新入社員や未経験者が就くことが多い、キャリアの最初期の職務)はAIが代替できるため、大学新卒者の就職が困難になるという状況となっている。
これとは対照的に、ブルーカラーの体を使う仕事の給与が上昇しているというデータも示されており、単に大学を出たからといってよい職に就けるわけではないことが語られた。
これらの状況を踏まえ、安藤氏は「これからの社会でAIを使いこなす能力が不可欠な要素となる」と強調した。
安藤氏自身も、AIを活用した「バイブコーディング※1」により、50人が半年かかるような上場企業のシステム案件をひとりでも1カ月で完成させられるようになったと述べ、校務システムの内製化など、企業や組織の運営にも大きな変革をもたらす可能性を示唆した。
※1 開発者がコードを書くことなく、自然言語でAIに指示を出すことでアプリケーションやシステムを構築する新しい開発手法。
青山学院におけるAIを活用した教育実践
生成AIの成長速度について説明する安藤氏
続けて生徒端末でのAI活用について、安藤氏は青山学院での具体的な教育実践を紹介した。
青山学院では、6年前からAIとプログラミングの授業を導入しており、すでに「AIをどう使うか」のフェーズを過ぎ、「AIに何を任せるか」という段階に移行していると語った。
安藤氏はその具体例としてAIに自然言語で指示を与え、対話しながらプログラムを開発させるバイブコーディングについて言及。
この手法では基礎から学ぶ従来のプログラミング教育と異なり、まずアプリを完成させてから、その過程で必要なプログラミングの基礎知識を習得していくと説明し、このアプローチは生徒が知識に縛られることなく「創造性だけに集中できる」と語った。
安藤氏はセキュリティに関する自身の考え方も示しており、一部のカード情報や口座情報などをAIに預けているが、セキュリティに関する不安はない、とAIに対する想いを語っていた。
安藤氏の講演は、AIがもはや単なるツールではなく、人間の創造性や生産性を飛躍的に高める「パートナー」としての役割を担っていることを明確に示した。
AIとどう共存し、何をAIに任せ、人間は何に集中すべきか。その答えのひとつを具体的に示し、社会全体がこのAIの急速な進化に適応し、その恩恵を最大限に活用できるような変革が求められていることを投げかけた。
実践事例紹介:城北中学校・高等学校におけるICT環境整備と生成AIの教育的活用
<登壇者プロフィール>
城北中学校・高等学校 校長
清水 団 氏
城北中学校・高等学校は、中高一貫教育を提供する私立男子学校。「人間形成」と「大学進学」を教育目標とし、自由と規律が調和する校風となっている。中学・高校に在籍する生徒数は約1,900名。
清水氏は、1996年に数学科教員として城北中学校・高等学校に着任。ICT委員長、入試委員長、教頭などを歴任し、今年の4月より校長となる。数学教育へのコンピューターの活用に関心があり、近年はJulia言語を数学の学びにどう活かせるかを研究・実践している。
GIGAスクール構想を先行したICT環境整備
清水団氏の講演では、城北中学校・高等学校で実施してきたICT環境の整備を振り返りつつ、急速な進化を見せる生成AIの教育的活用とその課題について語られた。
学校の取組を紹介する清水氏
清水氏は2014年ごろから城北中学校・高等学校のICT委員長として学校内のICT環境整備に着手し、2016年から2018年にかけて3カ年計画を策定した。
この計画ではまず教職員と生徒用のiPad®約500台を導入し、各教室には大型モニターやApple TV®、校内Wi-Fiを整備。
この際、Wi-Fiが停止してしまうトラブルまで考慮し、KDDI まとめてオフィスの協力のもと、セルラータイプのiPad®を導入したという。
また、2017年にはプレゼンテーションやアクティブラーニングに特化した専用教室「iRoom」も設置。この教室ではiPad®だけでなくプロジェクターや大型モニターに加え、プログラミングのような精緻な作業向けにMacBook®も導入したという。
GIGAスクール構想以前から積極的にICTを導入した城北中学校・高等学校だが、清水氏はICT環境整備を進めた根本には「生徒の学びをサポートしたい」という思いがあったと振り返る。
その背景として清水氏は2016年のMITメディアラボ訪問に言及し、ミッチェル・レズニック教授との対話を通じて、「やりたいこと、好きなことが学びの最初である」という考え方に共感。
同氏が提唱する「4つのP※2」を教育環境整備のコアに据え、教師の役割も生徒とともに学び、それを共有する場としての学校を目指すようになったと語った。
※2 創造的な学びには「プロジェクト(Projects)」「情熱(Passion)」「仲間(Peers)」「遊び(Play)」が必要であるという考え
また、清水氏はICT端末の活用としてBYOD※3の方針についても言及。
城北中学校・高等学校ではコロナ禍に実施したオンライン授業の経験から、画面の小さいスマートフォンを授業の軸とするのは難しいと考え、コロナ禍以降は入学時にタブレット端末やノートパソコンの導入、および家庭でのWi-Fi環境整備を要請しているという。
※3 Bring Your Own Deviceの略。生徒が端末を各自持参する方針のこと
共生を見据えた生成AI時代の教育戦略
「生成AIはどういうものか。」と参加者に問う清水氏
講演後半へと差し掛かると清水氏は近年急速な進化をみせる生成AIの教育的活用について話題を移した。
清水氏は「ChatGPTの発表当時を振り返り、日常的な生活だけでなく教育現場への影響も予感させる強烈な衝撃を受けた」と語った。
清水氏は発表後すぐに教育現場での活用を模索しはじめ、2023年の5月には学内でChatGPTに関する研修会を開催し、基本的な仕組みや教員の業務サポートにおける活用方法について議論したという。
同時期に行われたインタビューで清水氏は、生成AIの登場はインターネットと同等のインパクトのある「歴史の転換点」であると指摘。
教育的活用においては単純に禁止するのではなく、「適切な活用方法を模索することが重要である」と述べており、その姿勢は同年7月に策定された生徒・保護者向けの生成AI利用ガイドラインからも見て取れる。
2024年度からは探究の授業にも生成AIの利用を開始しており、文部科学省のDXハイスクール事業に採択され、高校3年生向けにChatGPTの有料ライセンス(ChatGPT Team)を導入。
新たな生成AIガイドラインも策定し、保護者の確認を前提としたうえで、学校のメールアドレスに紐づける形でChatGPTやGeminiの利用を許可したという。
清水氏は有料ライセンスの導入に踏み切った背景として生徒に「ワクワクする」体験を提供し、高機能なツールを通じて活用意欲を高める意図があったと説明。
同時に授業での生成AI活用には、ICTコンサルタント 福原 将之氏の言葉を引用し、今の中高生と、生成AIが当たり前に存在する次の世代の子との間には、AI活用力の差、すなわち「AI格差」が生まれてしまう可能性があるとし、今の生徒たちこそAIの教育が必要であると説明した。
清水氏は講演の最後に、自身の見据える生成AIのビジョンは「生成AIを友達感覚の相談員」として積極的に活用し、完璧性を求めず、また排除するのでもなく、共生していくことであると強調。
そのためには個人を尊重するガイドラインが必要であると訴え、国や国際的な機関での整備が必要ではないかと提言した。
また、自身の経験から教育現場への生成AI導入には、管理職との密なミーティング、教職員自身がAIを体験しよさを実感することが重要であると語り、学内研修会での情報共有が極めて有効で、今年行った中で「一番よかった」取組だと強く推奨し、講演を締めくくった。
最後に
KDDI まとめてオフィスでは、KDDIが長年培ってきた高品質でセキュアな通信を軸に、教育現場で役立つ多様なソリューションを提供しています。通信環境の整備から、ICT教育に必要なタブレット・パソコンなどの端末や教材も、ワンストップでご提供可能です。
また、導入後の活用についての積極的なサポートや、教職員の皆さまを対象にしたセミナーや研修なども実施しております。ICTの導入や運用についてお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
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