【仙台開催】「地域をつなぐ まなびのミライ ㏌ Sendai」イベント開催レポート
全国5都市を巡り、延べ98校121名もの教職員の皆さまにご参加いただいた「地域をつなぐ まなびのミライ」。その第5回目を、2025年8月22日に仙台で開催した。
当日は「東北の未来をつなぐ 魅力的な授業と教育DXの実現」をテーマに、講演と実践事例紹介を実施。教育実践につながる新たな知見とネットワークが生まれる実りある会となった。
本記事ではイベント開催レポートとしてフューチャーインスティテュート株式会社 代表取締役 為田 裕行 氏、近畿大学附属高等学校 IB DP TOKコーディネーター 乾 武司 氏にご登壇いただいた講演および実践事例紹介の様子を抜粋してお届けする。
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【福岡開催】「地域をつなぐ まなびのミライ in Fukuoka」イベント開催レポート
【広島開催】「地域をつなぐ まなびのミライ in Hiroshima」イベント開催レポート
【大阪開催】「地域をつなぐ まなびのミライ in Osaka」イベント開催レポート
【名古屋開催|講演編】「地域をつなぐ まなびのミライ in Nagoya」イベント開催レポート
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講演:ICTが広げる生徒の可能性と魅力的な授業づくり
<登壇者プロフィール>
フューチャーインスティテュート株式会社
代表取締役 為田 裕行 氏
教育に関わるコンサルティングに携わるフューチャーインスティテュート株式会社の代表取締役および教育ICTリサーチ主宰。
文部科学省 学校DX戦略アドバイザーをはじめ、さまざまな教育の最前線でアドバイザーとして活動。年間延べ150回以上学校の現場を訪れ、淑徳小学校の学内放課後スクール「淑徳アルファ」では講師を務める。
ICTの導入における言語化の重要性
為田氏は、今回の講演のテーマとして「デジタル化とはいかなるものか」「ICTを導入する理由」の言語化が必要である、という話から説明を始めた。
導入されたからなんとなく利用するのではなく、各学校の方針やコンセプトのなかにデジタルが入っているのか、どう活かせるのかを答えられるようになるのが重要であると述べた。
教育現場に行くことの大切さを語る為田氏
また、それらを考えるキーワードとして「能力の拡張」「環境の調整」を挙げ、作文やプレゼンテーションなどの文章の作成や提出、添削が簡単にできるようになったことを例として説明した。
為田氏は、「細かな部分の修正や作成途中の指摘、生徒間での意見共有など、アナログでは難しかった部分が容易になっている。生徒にはこれらを活用してよりよい内容を目指してほしい。また、そのような過程を実践できるようになってほしい。このような観点でデジタル化を捉えることが重要である」と語った。
また、デジタル導入の考え方としてICTを使う、GIGA端末を使う、といった大きな捉え方ではなく、その目的を明確にすることで、精度やモチベーションが上がることが望ましい、まさに、外国語を学ぶときと同じような考え方を持つのがよいと述べた。
続けて、「例として、ドイツ語を1からなんとなく学ぼうとしてもなにをしたらいいかわからない。しかし『ドイツでサッカースタジアムへ行って試合を見たい』となれば、必要なボキャブラリーや学ぶべきことが明確化されて、学び始められるのではないか」と語った。
これを置き換えて「デジタルはよくわからない」ではなく「デジタルを導入してこういう授業がしたい、そのためにはどの機能を使ったらいいのか」を考えると、学ぶべきことも明確化され、周囲から教えてもらうのも容易になると為田氏は説明した。
ICTを導入した実際の事例
続いて為田氏は、実際にICTを導入して実施された授業の例を紹介。アナログでは難しかった「意見や内容の共有」を優先的に行い、それを踏まえて何度も試行しよりよい形にしていくことが重要であると語った。
ICT導入理由・目的の言語化する必要性を説明する為田氏
国語の授業で実施しているのは、物語を一度読み、その感想や「どのポイントをクラスメイトと考えたいか」を書くという内容。書いた内容が常に全員に共有されており、ほかの人の文章を参考に書き出して、自身とは違う意見を見て再考ができるようなシステムとなっている。
その後紹介したのは、フィッシュボーン図などのシンキングツールの利用。好きなものなどひとつのテーマをもとにネタを挙げてもらい、それをさらにカテゴリ分けしてもらう。これらの内容も生徒同士で見られるようにすることで、大きな刺激になると為田氏は述べた。
また、4人一組で同じテーマのプレゼンテーションに取り組み、グループ内で聞き役を一人ずつ交代しながら、コメントをもらうたびに発表内容を改善していく対話型の授業や、新入生に向けての学校紹介動画作成の過程を紹介。いずれもデジタルを活用することで、試行錯誤の量を増やすことが重要であることを語った。
さらに為田氏は、神戸の小学校で実施された生徒同士の意見交換で、体育の授業の「抱え込み飛び」を成功させるという研究授業を紹介。この授業で生徒たちは、動画撮影など試行錯誤しながら積極的な意見交換を行ったものの、ノウハウや教育的知見が足りず、全員が飛べるようにはならなかった。
しかし、そういった生徒も指導主事が「一度跳び箱の上で座る感じ」と助言すると、抱え込み飛びができるようなったという。
為田氏はこの事例を踏まえ、ICTの活用においても教員が生徒にデジタルを与えるだけでは不十分と指摘。これまでに確立された教育の知見と結びつけて、デジタルをどう活用すればいいのか、言語化して指導することが重要であると述べた。
さらに、デジタルとアナログは0か100のような対立的な概念ではなく、連続的な関係性の中で、相互に補完できる関係であると強調。学習や学習のプロセスにおいては、デジタル一本、アナログ一本のような極端な活用ではなく、両方の利点が活かせるよう柔軟に使い分けることが重要であると語った。
最後に為田氏は教育ICTの活用目的を類型化して提示。「興味喚起」「モチベーション喚起」「理解促進」「授業効率化」「進捗確認・理解度確認」「教材拡充」「表現手段拡充・思考手段拡充」「情報共有の拡充」「学習環境の拡充」の9つに分け、このすべての目的を網羅する必要はなくとも、どの目的が学校方針にふさわしいのか、どの目的を達成したいのかを改めて言語化してほしいと述べた。
実践事例紹介:東北の未来をつなぐ~魅力的な授業と教育DXの実現~
<登壇者プロフィール>
近畿大学附属高等学校はおよそ3,000人の生徒が在籍。GIGAスクール構想による情報端末の配備に先駆けて、2013年より1人1台のiPad®を活用できる環境を実現している。
乾氏は予備校、塾、高校の講師を経験後、2002年より近畿大学附属高等学校に理科専任教員として勤務。
電算室主任として学内情報のデータベース化・ペーパーレス化や、ICT教育環境のアウトラインデザインに取り組む。IB DP TOKコーディネーターとしても活動。
生徒主体の学びの実現と教育の本質
乾氏による講演では、これまで自身が経験したトピックをもとに、生徒が主体となる学びの形や学校でしか学ぶことのできない要素などについて語られた。
世界の教育現場とのギャップにショックを受けた経験を語る乾氏
まず過去10年間であった教育関連の大きなトピックについて話題に出し、学習指導要領の改訂やコロナ禍、生成AIの普及などを挙げた。
乾氏は、2015年にApple Distinguished Educator※1に認定された世界各国の教師が集まるシンガポールのイベントに参加した際に、「教師主導で行う教育スタイルはすでに遅れている」と聞かされたときは、大きなショックを受けたと語った。
※1 iPadやMacBookなどのApple製品を活用し、教育現場の変革に取り組む人物が選定されるプログラム。乾氏は2015年に認定を受けている。
世界各国の教師たちは、生徒が共通のデータベースに情報を収集し、先生を含めた全員が考え、そのアウトプットをデータベース上に戻すという生徒主体の学びを想定していたそう。乾氏は情報伝達のスムーズさなどを前提にICTの活用を考えていたが、生徒主体のスタイルにこそICTが必要と気づかされ、この方向性を実現したいと思ったという。
評価に関しても定期テストによりほとんど決まってしまう点数のつけ方ではなく、途中過程に目を向ける形成的な評価や、タスクベースで何ができるようになったのか、どのような達成があったのかを評価することが大事だと考え、それに見合うような評価制度に変更したと述べた。
また生成AIに関して、授業の設計などに積極的に利用しているものの、さらなる技術発展やコロナ禍によるオンライン授業の一般化も含めて「学校とはいかなる場所なのか」「何を提供しないといけないのか」と、教育の本質を問われているのではないかと問いかけた。
続けて、それらを考慮し「学校でしか学べないこと」や、同年代の生徒が集まるという「稀有なコミュニティーを有効活用した学習」を提供したいと語った。
生徒間が相互に学びあえる授業のスタイル
続いて乾氏は、「学校でしか学べないこと」の例として、実際に行った授業を解説した。最初に紹介されたのは、地質年代などのひとつの大きなテーマのもと生徒が少人数のグループに分かれ、メンバーそれぞれがテーマを構成する特定のパートを分担して調査・資料作成を行い、最終的にグループで各資料をまとめたプレゼンを行う授業。調べ学習に近い形で進められるが、最終的には生徒自身が授業をプロデュースし、分担して作成した資料がクラス全体の教材になるスタイルを目指して実施されている。
分析評価の授業実践が少ないことを説明する乾氏
乾氏は「この方法は単元が異なっても可能である」と言い、同じようなスタイルで実施した生物の授業を例に挙げた。複数人のグループを組みそれぞれ役割を割り当て、各々が調べたものをグループ内で共有。まとめた内容を動画形式で提出してもらうという、ジグソー法※2を取り入れる形で設計していた。
※2 特定のテーマに対してグループメンバーがそれぞれの役割を分担して学習を行い、調べた内容を教えあい課題解決や内容理解を深める学習方法。
調査は教科書や問題集、関連資料、インターネットなど明確に指定をしておらず、さまざまな方法で行わせた結果、高校生の範囲を逸脱するほどの深い内容が完成した。動画作成時のアウトプットは計画段階ではワークシートにまとめるアナログの形で行ったが、ビデオの撮り方などに関して生徒たちは解説をせずともすでに知識があるため、アプリケーションに関する説明は基本的にしていないと説明した。
各々のグループが作成した動画は共有し、相互評価を実施。作成時に内容が間違っていた場合も、乾氏が指摘をせずとも動画を見た生徒間でも意見交換が行われ、支障はなかったと述べた。
ほかにも共有結合やバイオームに関する調査、資料・動画の作成を行う授業を実施。それぞれのグループから同じテーマのメンバーを集めてディスカッションをすることで理解度を高めるほか、間違った動きや内容の動画は減点すると事前に伝えると、生徒間でもシビアにチェックしていたと語った。
また乾氏は授業を考えるヒントとして、授業中に動詞を増やすことを心がけるよう働きかけたという。ブルームのタキソノミー※3に、それぞれの分類にさまざまな動詞がついていることに着目し「今回の授業ではこの動詞に基づいて、このような活動をさせよう」というスタイルで授業を組み立てたと述べた。
※3 さまざまな学習スキルを下位から上位に向かって並べた、教育目標を段階的に設定するための分類体系。
乾氏は最後に、成果を生徒間で共有して全員が成長できるような授業を展開したいと述べ、自分だけのために勉強するのではなく、さらにほかの人や社会に貢献できるような活動やシステムを考えていると結んだ。
最後に
KDDI まとめてオフィスでは、KDDIが長年培ってきた高品質でセキュアな通信を軸に、教育現場で役立つ多様なソリューションを提供しています。通信環境の整備から、ICT教育に必要なタブレット・パソコンなどの端末や教材も、ワンストップでご提供可能です。
また、導入後の活用についての積極的なサポートや、教職員の皆さまを対象にしたセミナーや研修なども実施しております。ICTの導入や運用についてお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
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