建築家が考える、これからのオフィスVol.3
キーワードは『多様性』!~『効率』と『多様性』を備えたオフィスづくり(前編)~
建築家の成瀬友梨氏と猪熊純氏に、これからのオフィスデザインの在り方について伺うインタビュー連載3回目。
前回は、オフィス改革を進めるにあたり、初期段階で目的を定め、その目的に沿った要望や機能を洗い出していくことの大切さについて伺いました。
そのうえで、今回のテーマは『効率』と『多様性』を備えたオフィスづくり(前編)です。オフィスで働くうえで、皆とアイデアを出し合ったり、黙々と集中したり、あるいはリフレッシュするために休憩するなど、その都度、必要によって行動は異なります。個人が自由に、自発的に、環境やコミュニケーションを選べる多様性のあるオフィス空間を用意することが効率改善へのポイントになります。具体的な事例を交えながら、限られたスペースにさまざまな機能を付加し、『効率化』を実現する方法を中心に伺いました。中小企業にとっても大いに活用できる、その方法とは――?
目次
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同じスペースで異なる用途を備えた『重ね使い』の発想
――近年、社内に自由に使えるフリーアドレスエリアを導入する企業も増えているようですが。
猪熊
そうですね、デンソーさんの場合も、社内外の人がピットイン感覚で自由に使える、すなわちシェアできるエリアが欲しいという要望が当初からありました。サテライトオフィスということもあり、その優先順位は高いものでした。同時に優先順位が高かったのは、『イベントができるスペースがほしい』という要望です。しかし、当然ながら床面積には限りがあります。そこで、以下の写真のようにデザインしました。
デンソー名古屋オフィス/可動の机や植栽を用途に合わせて配置して、ミーティングやワークショップなどを行うことができる。
デンソー名古屋オフィス/机を全て片付けて講演会や説明会を行うこともできる。
――これは、同じスペースでしょうか?
成瀬
そうです。普段はフリーアドレスエリアとして使い、状況に応じてイベントスペースになるよう設計しました。ひとつのスペースにひとつの意味しか与えないのではなく、さまざまな用途を兼ね備える"シェア"の考え方のひとつです。馴染みやすい言葉に置き換えると『重ね使い』ですね。オフィスの面積が広ければ、フリーアドレスエリアやイベントスペース、会議エリアなど、それぞれ固定した配置にすればよいのですが、なかなかそうはいかないケースが多いため、状況に応じてこうした発想を取り入れることがあります。
猪熊
この『重ね使い』をするにあたり、ひとつの課題があります。それは、いかに転換しやすくするかということ。転換に大きな労力がかかるようだと得てして面倒になり、イベントを開催すること自体に消極的になってしまいかねません。楽しく、効率よく場の転換が行われるためにはどうすべきか、という点が私たちの最大の頭の悩ませどころでした。
誰もが効率よく使うことができる機能を導入
――具体的に、どのようにして『場の転換のしやすさ』をもたらしたのでしょうか?
成瀬
まずは椅子やテーブルなどの什器の動かしやすさですね。サテライトオフィスの画像にも写り込んでいますが、植栽にもキャスターをつけて、大きな力をかけなくてもスムーズに移動させられるようにしています。
猪熊
加えて、サテライトオフィスの性質上、毎回利用される方が異なってきます。よって、『どこに何が収納されているか』が誰でも視覚的にわかるようにすることを心掛けました。そこで、壁で覆われた『椅子などをストックしておく部屋』にしてしまわずに、スケルトンタイプの収納にしたところがポイントです。
デンソー名古屋オフィス/フレキシルブスペースの家具は全てこのスケルトン収納にしまうことができる。
――なるほど。これならどこに何が収納されているか、ひと目でわかりますね。
成瀬
98脚の椅子、10台の机、18台のパレット、9台のホワイトボード、3台の収納カートが、1つのフレーム什器に納められるようになっています。さらに、いったんイベントで取り出した椅子などを、どこにしまえばよいかもすぐにわかるよう、床に『Stacking Chair』など、その場に収納すべきモノの名前もサインとして書き入れてあります。
デンソー名古屋オフィス/それぞれのアイテムの収納場所がわかるように床にサインを設置している。収納は工場で用いられるパイプ什器で構成した。
――スケルトンタイプの収納什器や椅子などのデザイン自体も、空間にマッチしているように感じます。
成瀬
デザインのテイストに関して、デンソーさんの場合は『オフィス勤務の社員が"デンソーはモノづくりの会社"であることを感じながら働けるようにしたい』という要望がありました。それゆえ、工場を想起させるようなメタリックな素材を随所に取り入れて、工場で使われているスケルトン収納も違和感なく空間に溶け込ませることができました。
猪熊
空間デザインには、異なる部門・立場の人びとの垣根を取り払い、結果的にコミュニケーションが活性化したり、意識の共感・共有を生み出す力を秘めています。工場で働く人と、オフィスで働く人、それぞれの意識を共にすることで、会社として一体感が生まれる一助になれば、作り手である私たちも嬉しいですね。
デンソー名古屋オフィス/ミーティングブール(左)と収納(右)の間にあるオープンなミーティングゾーン。
――ひとつの空間にさまざまな意味を持たせる『重ね使い』の発想は、どの企業のオフィスデザインにも反映できるでしょうか?
成瀬
そう思いますね。基本的には、スペースに制限が生まれがちな中小企業にこそ、有効だと考えています。たとえば、壁に囲まれていない大きなテーブルがオフィス内にひとつあれば、それはオープンな会議スペースにもなるし、ちょっとした休憩・歓談できるスペースにもなる。大きな紙の資料を広げて行う作業にも使えますよね。
猪熊
会議室を一時的に特定の案件を進めるための基地(プロジェクト室)として使ったり、社食をフリーアドレススペースやイベントスペースと兼ねるといったことも状況によっては可能となりますね。無駄なスペースをなくすことはもちろん、有効なスペースを増やすという発想で臨むことも時には大切になると感じています。
次回予告
次回は事例をもとに、『効率』と『多様性』を備えたオフィスづくり(後編)についてお届けします。
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