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人びとのマインドを動かす空間づくり

建築家が考える、これからのオフィスVol.5

人びとのマインドを動かす空間づくり

2018年09月28日掲載(2023年11月02日更新)
※ 記載された情報は、掲載日現在のものです。

建築家の成瀬友梨氏と猪熊純氏に、これからのオフィスデザインの在り方について伺うインタビュー連載5回目。
前回は、オフィスには質の異なるさまざまな空間を設ける『多様性』が、イノベーションにつながりうるお話を伺いました。
最終回となる今回のテーマは『デザインが人びとのマインドを変える』ことについて。ここで言う『人びと』とは、オフィスで働く社員(インナー)や、そのオフィスを訪れる取引先(アウター)を意味します。オフィスを改善することで、社員が会社に対して愛着を抱き、取引先にさらなる信頼を抱いてもらうためのオフィスデザインとは一体どのようなものなのか。お二人に語っていただきました。

成瀬・猪熊建築設計事務所の建築家:成瀬友梨氏(左)と猪熊純氏(右)
成瀬・猪熊建築設計事務所の建築家:成瀬友梨氏(左)と猪熊純氏(右)

目次

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どのようなホスピタリティをもって、お客さまを迎えるか?

――オフィスデザインは、その空間を利用する人びとのマインドを変えることにもつながりますか?

猪熊
マインドを変えることこそが、デザインがなすべき本質であると思っています。『社員には、こう感じながら働いてもらいたい』『取引先の方には、来社いただいた際にこんなイメージを抱いていただきたい』。双方をきちんと踏まえたうえでオフィスづくりをすることは、とても大切ですね。かつて私たちがデザインを担当した、フラッシュセールサイトを運営するGLADD(グラッド)株式会社(以下、GLADD)さんの場合は、『来社する取引先に"ホームに来た"と感じてもらいたい』との要望が初期段階で上がりました。

――ホームとは、いわば"自分たちのテリトリー"ですね。

成瀬
はい。ビジネスの性質上、お客さまが持参する商品を社内で撮影したり、「こういった見せ方をしよう」と打ち合わせたりと、お客さまと一緒にチームとなって業務を進めることが多いそうです。だからこそ"ホーム感覚で"というニーズにつながったんですね。

――"ホームに来た"と感じていただくということは、エントランスを工夫したということでしょうか。

猪熊
そうなんですが、いくつかのハードルがありました。まず要望を伺ってみると「会議室はこれくらいほしい」「デスクの数はこれくらい」「休憩できるエリアもほしい」など、『セキュリティエリア内で賄いたいスペース』がことのほか多かった。残されたスペースはごくわずかで、そこで来社された方に"ホーム感覚"を抱いてもらうことは実際厳しいですよね、と正直に伝えるところからスタートしました。

成瀬
そのうえで提案したのは『会議スペースや休憩スペース、給湯までも"セキュリティエリアの外"に出すこと』です。個々の会議室にセキュリティは設けるものの、会議をするのも、お茶を淹れにいくのも、休憩するのも、すべてセキュリティエリア外。社内外を問わずオープンな会社の構えにしました。

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GLADD株式会社 エントランス/エントランスがスタッフの給湯・休憩スペースを兼ねている。

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GLADD株式会社 エントランス/手前のリラックスゾーンの奥に、クライアントとのミーティングスペースがある。

――来社するお客さまと、休憩する社員が同じスペースにいる空間は画期的ですね。

成瀬
ホーム感覚という要望あればこそ、だと思います。来社するお客さまに、心地よさを感じてもらいたいと思うのはどの企業も同じですよね。ただ、どのようなホスピタリティをもって迎え入れたいかという部分は異なります。飲食店の空間に置き換えると、格式高いフレンチレストランで丁重にお辞儀して迎え入れるのも、立ち飲み屋さんのようなところでフランクに迎え入れるのも、どちらもタイプは違えどホスピタリティであることに変わりはありません。

――結果的に、GLADD様ではどのようなデザインを施すことで、ホーム感覚を持たせたのですか?

猪瀬
お客さまがエントランスで待っている際、文字どおり社員の"顔"が見えます。「こんにちは」と挨拶を交わすこともあるでしょう。人の気配がせず、緊張感を抱きながら担当者を待つタイプのエントランスとは真逆で、照明もそうですが、木目調の床や、暗めの壁、ソファーを設けたりしながら、いわゆるカフェのようなリラックスして待つことができる空間に仕上げました。人の暖かみがあり、親近感を抱いていただける空間にすることで、その後の打合せ・商談もカジュアルに会話が弾んで欲しい。そういうホーム感覚を目指しました。

社員の"自発性を促す"働き方改革には、オフィスデザインの一新が有効

――社内(インナー)、すなわち社員の方も、その空間を利用していますか?

猪熊
はい。完成後にお訪ねした時は、休憩している方だけでなく、「居心地がいいから」という理由で畳のスペースに足を伸ばして座り、ノートパソコンで仕事をしている方もいました。『休憩以外はしてはいけないスペース』ではありませんから、そうした自発性を持って利用していただいていることは、作り手としても嬉しいですね。

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GLADD株式会社 エントランス/畳の小上がり。オフィスで働く人がノートパソコンを持ってきて仕事をする風景も見られる。

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GLADD株式会社 エントランス/執務空間。リラックスゾーンとは打って変わって、集中できるように白い明るい照明とした。

――社員が利用しやすい休憩エリアになったのは、どういった理由があるとお考えですか?

猪熊
社内に環境的な多様性が生まれたことが大きいですね。執務エリアは明るめに、休憩を含むエントランスエリアは暗めに、照明を大きく変えているのもその一環です。人間は明るめの空間だと、"周囲に見られている"気がして落ち着けないもの。逆に暗いとリラックスすることができます。
これが同じ照明、同じ質感のデザインで仕上げていたら、わざわざ社員の皆さんがセキュリティ外のエリアへ出向く理由がとても希薄になります。「なんで給湯を外に出すなんて面倒なことをしたんだ」とも言われかねません。照明を変えることで業務と休憩のメリハリを利かせられる、居心地がよくて愛着を抱けるオフィス空間になっていると思いますね。

――環境の在り方ひとつで、マインドは大きく変わるということですね。

成瀬
『居心地が良い』という言葉は、得てしてリラックスする際に限定して使われる傾向がありますが、一人で黙々と集中して仕事ができる環境もまた「居心地が良い」んですね。さまざまな空間があり、それぞれの居心地が良い。そうしたオフィスの多様性が、会社への好感度や仕事へのモチベーションアップなど、マインドを変えることにつながっていくと思います。

――これまでさまざまなポイントや事例を伺ってきましたが、建築家の立場からみても、オフィスデザインは働き方改革に有効だと感じますか?

成瀬
はい。少子高齢化・労働力不足に伴い、リクルーティングや離職率の抑止が課題になってきていますよね。外からのイメージ醸成もさることながら、内側から社員にとって『働きたいと思えるオフィス・愛着のある会社』にすることはとても大切だと感じます。また、新しいイノベーションを起こすということを社員に浸透させるためのわかりやすい手段として、オフィスデザインを依頼する企業も増えている状況です。

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猪熊
企業として働き方を変えるため、ルールづくり・組織づくり、空間づくりなど、色々なアプローチが可能かと思います。このうちルールや組織づくりは、なんらかの制約が加わる形での働き方改革になりますよね。たとえば「水曜日は残業してはダメです」といったようにです。そこでもし不平不満が募ってルールが形骸化すると『自発性を促す』という、本当の意味での働き方改革とは逆のベクトルになりがちです。その点、空間づくりは、制約を設けるのではなく、その場にただ空間として存在するのみ。その空間を思い思いに利用することになるので、本当に『自発的な働き方』を促すためには、とても有効だと思いますね。

成瀬
どんな環境が最適なのかは会社の規模や仕事の内容によって異なります。ただ、これまであまり重視されていなかった、そこが人の生活する場であるという視点を忘れないことが、実はとても大事なのではないかと思います。気持ちの良い環境を作って、幸せに働けるオフィスが増えるといいなと思います。

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