働き方改革やコロナ禍によって急速に普及したリモートワークは、出社回帰の流れなどを受け、一時的なものではなく"ハイブリッドワーク"という形で定着しつつあります。都市部の大企業から地方の中小企業まで、出社とリモートワークを組み合わせる働き方が拡大する中で、自社にリモートワークの環境を整えられていないことは、単に「働き方の柔軟性が足りない」という程度の問題ではありません。これは、採用力・定着率・生産性・企業価値の四つの軸で持続的な競争優位を損なう恐れがあります。今回は、その危機の実像を解き明かし、企業が取るべき打ち手を提示します。
ハイブリッドワークが「標準設定」になったという事実
リモートワーク比率がピークアウトしたとされる現在においても、従業員の働き方の志向は「場所にとらわれず働ける自由」に強く傾いています。Job総研が2025年1月に実施した出社実態調査*では、理想の出社頻度として「週3日以下の出社」を望む回答が70.9%に達します。また、理想の働き方として完全リモートを含む「リモートワークを希望する」という回答が55.2%を占めています。
一方で、管理職層は部下に出社を求める傾向が強く、部下に対して「出社してほしい」と考える上司の割合は71.4%に上っており、出社回帰を求める企業と、柔軟性を求める従業員とのギャップが存在することを示唆しています。こうしたギャップは、最終的に人材流出や採用力低下といった形で、企業に大きなコストとして跳ね返ってくることになります。
*出典:Job総研「2025年 出社に関する実態調査」
https://jobsoken.jp/info/20250127/
採用力が低下。優秀な人材が「選ばない会社」に
新卒採用市場では同様の傾向がさらに顕著に現れています。株式会社学情が2024年6月に2026年卒学生748名を対象に行った調査*では、「フルリモートや居住地自由の制度があれば志望度が上がる」と回答した学生が66.6%に達し、半数以上が企業選びの判断軸に「リモート可否」を組み込んでいると答えています。
企業が採用活動に多額の費用を投じても、就職サイトの検索フィルターで「リモート不可」と設定されている時点で候補から除外されてしまうのが、就職活動を行う学生における企業探しの実態と言えるでしょう。熟練エンジニアやハイキャリアの転職市場でも状況は同様で、勤務地を問わずに働ける企業は全国から優秀な人材を採用し、「リモート不可」の企業は採用難易度が上がっていきます。
*出典:株式会社学情 プレスリリース
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001250.000013485.html
定着率の悪化。介護・育児と両立できない職場が背負うコスト
少子高齢化により、労働人口が減少傾向にある日本では、人材の質を保つ上で、既存従業員の「定着」が重要です。しかし、介護や育児と仕事の両立には時間と場所の柔軟性が不可欠であり、これらを確保できない組織は離職率の上昇を避けることができません。
介護や育児を理由とした退職は、決して看過できない問題です。東京商工リサーチが2024年度に5,500社を対象に実施した調査では、過去1年間に介護離職が発生した企業は7.3%存在し、大企業に限れば12.0%に達しています。業種別では宿泊業で23.0%、飲食業で18.1%と高い割合を示しており、人的サービスに依存する業界ほどその傾向が顕著です。例えば従業員50名の企業にこの割合を当てはめると、年間3〜4名が「仕事と家庭の両立が困難」という理由で組織を去る計算になります。
離職が増加すれば、採用費・育成費が雪だるま式に膨らむだけでなく、知識やノウハウの継承が滞ることで組織学習が停滞し、中長期的な競争力を損なう結果となります。
出典:2025年4月「介護離職に関するアンケート」調査
https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1201287_1527.html
財務インパクト。高止まりする固定費と沈む収益率
出社が必須の体制では、オフィス賃料や通勤交通費が固定コストとして企業に重くのしかかる一方、ハイブリッドワークを進めた競合は、オフィス縮小やサテライトオフィスを活用した変動コスト化によってコスト構造をより軽量化しています。
リモート環境が未整備な企業は、
- スペース効率改善によるコスト最適化の機会を逸失する
- 業務プロセスのデジタル化が遅れる
- 生産性向上を果たした競合との相対比較において競争力が低下する
といった「三重苦」に陥ります。結果としてコストが上昇するという負の連鎖を招くことになります。
通信基盤から始める"逆転のシナリオ"
企業が直面する人材確保や固定コストの課題に対し、競争優位性を確立する柔軟な働き方の導入が鍵となります。ここでは、その実現のベースとなる、通信基盤を軸とした三つのアプローチをご紹介します。
- ネットワークの可用性を担保する
VPNやクラウドSaaSを活用し、社内外をシームレスに接続することで、場所を選ばない柔軟な業務環境を整えます。 - ゼロトラスト型セキュリティを標準化する
端末認証とIDベースのアクセス制御を導入し、持ち出し用パソコンや自宅Wi-Fiからの安全な接続を可能にします。 - KPI を「エンゲージメント」と「業績改善」に紐づける
オフィス出社率を管理指標とするのではなく、従業員エンゲージメントスコアや1人当たり粗利といった、成果指標で評価する社内文化への転換を図ります。
KDDI まとめてオフィスでは、専用回線、クラウドVPN、モバイル回線といった通信環境の整備から、ゼロトラストやコラボレーションツールなどのリモートワーク支援サービスまで、幅広く提供しています。まずはお気軽にご相談ください。
"出社強制"はもはや経営リスクに
ハイブリッドワークを「選択できない」状態は、採用・定着・生産性・財務という企業活動の重要領域においてコストを増加させる要因となります。一方で、通信基盤を整備し、柔軟な働き方を制度化した企業は、人材獲得競争においても資本市場においても優位に立つことができると考えられます。
リモートワーク環境の整備は、単なる対症療法ではなく、未来の企業価値を底上げする経営戦略の要となるでしょう。
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