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「動けない日」は必ず来る──ハイブリッドワーク未整備がBCPを崩壊させる理由

「動けない日」は必ず来る──ハイブリッドワーク未整備がBCPを崩壊させる理由

2025年09月05日掲載
※ 記載された情報は、掲載日現在のものです。

台風の進路予想にぶつかり、公共交通機関が計画運休を宣言する。そんな日に、社員を守りつつサービスを止めない仕組みを持っていない企業は、わずか数時間で社会的信用を失う可能性があります。気象庁の解析によると、1時間降水量が100ミリを超える「線状降水帯級」の豪雨は1976年以降、10年あたり0.5回の割合で増え続けており*、この増加傾向は統計的にも有意であると報告されています。つまり「想定外の荒天」はもはや例外ではありません。そうであるにもかかわらず、社内LANと出社前提の業務フローに依存したままでは、事業継続計画(BCP)は意味をなさないものとなります。

* 出典:気象庁「大雨や猛暑日など(極端現象)のこれまでの変化」
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/extreme/extreme_p.html

災害時、安全確保か業務継続かの二者択一を迫られる企業

VPNやクラウドSaaSを活用したリモートワークの環境を整備していない企業は、風水害や地震の際に「社員の安全確保」と「業務の継続提供」を同時に実現する手段を持っていません。出社を強要すれば人命に関わるリスクを負い、かといって通勤を禁じれば顧客対応の停止や取引の中断などによる経済的損失と信用の失墜を招く可能性があります。この二律背反は、BCPの不備ではなく経営責任として、消費者や取引先に受け取られます。さらに、災害時にサーバーが停止したりサプライチェーンが途絶したりすれば、訴訟などの法的リスクにまで波及する可能性もあります。リモートワークを認めず、リスクを分散しないことは、企業全体の信用を大きく毀損することにつながりかねません。

大きくなる機会損失という「見えない赤字」

リモートワークの環境が未整備であることは、採用市場においても競合に対して不利になります。Job総研が2025年1月に実施した調査*では、「理想の出社日数が週3日以下」と答えた社会人が70.9%に達し、「週5日出社を希望する」と答えた割合は12.1%にとどまりました。

*出典:Job総研「2025年 出社に関する実態調査」
https://jobsoken.jp/info/20250127/

さらに、別コラムでもご紹介した通り、株式会社学情が2026年卒学生を対象に行った調査では、「フルリモートや居住地自由の制度があれば志望度が上がる」と回答した学生が66.6%を占めています。つまり、リモートワークを許容しない企業は、採用の入口段階で多くの優秀な人材の選択肢から外れてしまうことになります。また、ハイブリッドワークを推進する競合他社が、オフィスの縮小や最適化により固定費の圧縮を進めている中、出社が必須の体制では、オフィス賃料や通勤交通費が固定コストとして残存することになります。

地方在住の優秀な人材をリモートワーク前提で採用できないだけでなく、オフィス縮小による固定費圧縮の機会も逸してしまいます。これは、競合他社と比較してコストが高止まりすることを意味します。この「見えない赤字」は財務諸表には現れませんが、企業の価値を徐々に押し下げることにつながります。

*https://jobsoken.jp/info/20250127/

単一接続が抱える障害リスク

真のBCP対策を目指す上で、モバイル回線、衛星バックアップ、セキュアSIM PCなどを組み合わせた多重接続の検討も重要です。たとえば、災害などによりモバイル基地局が停電すれば4G/5G回線は停止し、公衆回線が輻輳すれば帯域は奪い合いになります。この際、衛星回線が無ければ、重要な情報を扱う拠点は外界と遮断されることになり、代替手段として個人のスマートフォンで一般通信アプリを使用すれば、情報漏えいのリスクが跳ね上がります。さらに、端末側にゼロトラスト型のセキュリティとMDM(モバイルデバイス管理)が施されていなければ、自宅Wi-Fiや避難所のアクセスポイントを経由したマルウェア侵入により、被害が増幅する可能性も考えられます。単一接続に頼っている企業は、綱渡りを続けているに等しいのです。

失われるのは「できること」ではなく「失敗できる余裕」

ハイブリッドワークの整備は、しばしば「社員が柔軟に働ける」「通勤時間が減る」といったメリットが強調されます。しかし実際には、それらの恩恵を『享受できない』状態に陥ることこそが問題なのです。たとえば、働く場所を分散化していない企業は災害時に安全と継続の二者択一を強いられ、採用市場では候補者に敬遠され、固定費削減の機会を自ら逸してしまいます。さらに、ネットワークの多重化を怠れば、たとえデータベースを冗長化していても、末端の通信が途絶えた瞬間に業務は停止せざるを得ません。つまり、「できない状態」は単一のリスクではなく、「ミスをリカバリーする余裕」を丸ごと放棄する決断をしている状態と言えるのです。

今から始めるべき最小限のこと

まず、自社ネットワーク内における単一障害点(1箇所が故障するとシステム全体が停止する部分)を棚卸し、社内外のアクセス経路がひとつでも途絶えれば止まる業務を特定します。次に、VPNとクラウドSaaSを活用して業務システムを分散させ、ID管理と暗号化通信をゼロトラストの考え方で推進します。加えて、モバイル回線や衛星回線を利用し、併せてSIM PCを導入することで、端末からクラウドまで接続経路を多層化します。これらの対応ができれば、あとは制度面の整備を行うことでリモートワークによるリスク分散とBCP対策が大きく強化されます。

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危機は避けられないが、準備不足という「人災」は避けられる

豪雨が街を水没させ、鉄道が止まり、外出も困難となる。そうした非常時に、自社だけが平時同様にサービスを稼働させられれば、それだけで市場の信頼は劇的に高まります。反対に、BCPが適切に機能しない企業は「社会的インフラとしての役割を果たし得ない」と判断され、顧客や取引先からの信用を喪失します。ハイブリッドワークの整備は、単なる働き方改革の一部に留まらず、経営リスクをコントロールするために必須の投資です。「動けない日」は必ずやって来ます。その瞬間に、自社が市場からどのように評価されるのか――その答えは、今日の準備にかかっています。

※ 記載された情報は、掲載日現在のものです。

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