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103万円の壁はいつから160万円に引き上げられる?企業への影響も解説

103万円の壁はいつから160万円に引き上げられる?企業への影響も解説

2025年10月27日掲載
※ 記載された情報は、掲載日現在のものです。
「103万円の壁」見直しで160万円に?変更時期と企業への影響を解説

これまで配偶者の扶養を意識した働き方では、年収が103万円を超えると所得税が発生する「103万円の壁」が長らく基準とされてきました。しかし、令和7年度(2025年度)税制改正により、この基準は160万円に引き上げられました。従業員にとっては働きやすさが増す一方で、企業側には給与システムや社会保険手続きの見直しなどの対応が求められます。

本記事では、103万円の壁の仕組みや改正内容、そのほかの「年収の壁」の変化、160万円の壁による減税額、企業にとってのメリット・デメリット、必要な対応策を解説します。制度改正のポイントを正しく理解し、自社の労務管理に役立ててください。

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1. 103万円の壁とは

103万円の壁:給与所得控除の最低保障額と基礎控除額を合計した非課税ライン

103万円の壁とは、給与所得控除の最低保障額と基礎控除額を合計した非課税ラインのことです。2025年からは控除額が見直され、160万円を上限とする新たな仕組みに移行します。ここでは、103万円の壁や160万円の壁の詳細について解説します。

1-1. 103万円の壁と税制・扶養の関係

103万円の壁とは、年収103万円を超えた給与所得者に所得税の課税が始まり、配偶者控除が受けられなくなる収入基準を指します。加えて、社会保険制度や企業の配偶者手当の条件とも重なり、働き方に影響を与える基準となっていました。

税制上の観点では、給与所得控除額と基礎控除額を合計した非課税ラインが103万円に設定されており、年収が103万円以下であれば所得税は課されません。また、厚生年金保険や健康保険の制度では、会社員の配偶者等で一定の収入がない方は被扶養者(第3号被保険者)として扱われ、社会保険料の負担も不要です。

しかし、収入が増えて年収が130万円を超えると、社会保険料の支払いが必要となる分、手取り額は減少します。従業員50人超の企業で週20時間以上勤務し、所定内賃金が月額8.8万円以上(年収約106万円)になった場合も、厚生年金保険等に加入する義務が生じます。

また、企業が独自に設ける配偶者手当や家族手当などの制度においても、扶養家族に一定以上の収入があると手当の支給対象外となる場合があるため、「103万円の壁」が働き方に影響を及ぼしていました。

出典:厚生労働省「「年収の壁」への対応」

出典:厚生労働省「『年収の壁について知ろう』あなたにベストな働き方とは?」

1-2. 103万円の壁はいつから160万円に引き上げられる?

103万円の壁は、従来は給与所得控除55万円と、基礎控除48万円を合計した103万円を基準として、所得税が非課税となる仕組みでした。しかし、令和7年度の税制改正により基準が見直され、2025年度分以降に課される所得税は「年収160万円まで」が非課税ラインとなります。

具体的には、給与所得控除の最低保障額が55万円から65万円に引き上げられ、さらに基礎控除額も従来の48万円から95万円に拡大されます。その結果、年収132万円以下の方については、給与所得控除65万円と基礎控除95万円を合計した160万円まで所得税がかからないことになります。ただし、非課税枠は一律ではなく、年収が132万円を超える場合は基礎控除額が段階的に減少し、最終的には58万円まで下がる点に注意が必要です。

●所得税基礎控除額の改正内容

合計所得金額 改正前 改正後の基礎控除額
2025~2026年 2027年以後
132万円以下 48万円 95万円
132万円超~336万円以下 48万円 88万円 58万円
336万円超~489万円以下 48万円 68万円 58万円
489万円超~655万円以下 48万円 63万円 58万円
655万円超~2,350万円以下 48万円 58万円

出典:国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」

●給与所得控除の見直し内容

改正前 改正後
給与所得控除の最低保障額 55万円 65万円

出典:国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」

また、従来存在していた配偶者特別控除についても改正が行われ、満額控除が受けられる配偶者の給与年収の上限が、2025年以降は160万円に引き上げられます。配偶者特別控除は、一定の収入を超えても控除額が段階的に減少する仕組みであり、配偶者の収入が増えても世帯全体の手取り額が急減しないよう配慮されています。

出典:首相官邸「いわゆる「年収の壁」対策」

2. 令和7年度税制改正によるほかの年収の壁の変化

年収の壁には、子どもの年収上限に関するもう1つの103万円の壁や、106万円の壁、130万円の壁も存在します。令和7年度の法改正ではもう1つの103万円の壁、106万円の壁、130万円の壁も同時に見直され、それぞれの基準が変更されました。

2-1. もう1つの103万円の壁は150万円に引き上げ

令和7年度税制改正では、大学生年代の子どもを持つ家庭の負担軽減を目的として、「もう1つの103万円の壁」と呼ばれていた基準が見直されました。これまで特定扶養控除において、子どもの年収が103万円を超えると親の扶養控除が受けられませんでしたが、改正により子どもの年収上限が150万円に引き上げられます。親は子どもの年収が150万円までであれば従来と同じ63万円の控除を受けられるため、子どもがアルバイト収入を増やしても親の税負担が急激に増えることはなくなります。

さらに、新たに「特定親族特別控除」が創設され、19歳から22歳の大学生年代の子どもを持つ親の税負担をより軽減する仕組みが整えられました。特定親族特別控除とは、扶養親族の年収が150万円までであれば63万円の控除を受けられるほか、150万円超~188万円以下でも控除額が段階的に適用される制度です。これにより、子どもが一定以上働いても世帯全体の手取り額が急減しないよう配慮されています。

出典:首相官邸「いわゆる「年収の壁」対策」

●2025年以降の特定親族特別控除額

子どもの年収額 特定親族特別控除額
123万円超~150万円以下 63万円
150万円超~155万円以下 61万円
155万円超~160万円以下 51万円
160万円超~165万円以下 41万円
165万円超~170万円以下 31万円
170万円超~175万円以下 21万円
175万円超~180万円以下 11万円
180万円超~185万円以下 6万円
185万円超~188万円以下 3万円

出典:国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について(源泉所得税関係)」

2-2. 106万円の壁は撤廃予定

106万円の壁とは、パートやアルバイトが厚生年金保険に加入する条件の1つである「月額賃金8万8,000円以上(年収106万円以上)」の要件を指し、手取り額が減るのを避けるために就業調整を行う基準となっていました。この賃金要件は、2025年6月13日に成立した年金制度改正法に含まれており、厚生労働省を中心に、撤廃される方向で議論が進んでいます。撤廃時期は、法律の公布から3年以内の政令で定められ、全国の最低賃金が1,016円以上となることを見極めて判断されるため、2028年頃の実施が想定されています。

これにより、年収額にかかわらず週20時間以上働く場合は社会保険への加入ができるようになり、従来のように年収106万円を意識して働き方を制限する必要がなくなることが期待されています。

また、現在は「従業員数51人以上」に限定されている社会保険加入の企業規模要件についても、2027年10月から2035年10月の10年間をかけて、段階的に縮小、撤廃される予定です。この改正により、常時5人以上を雇用する全業種の法人や個人事業所も、社会保険の適用対象に含まれます。また、農業・林業・宿泊業・理美容業などの非適用業種も含まれることになります。

※ 既に存在している一部の個人事業所は当面の間、対象外。

出典:厚生労働省「社会保険の加入対象の拡大について」

2-3. 130万円の壁は一時的な収入増が対象外に

130万円の壁とは、被扶養者として健康保険に加入できる収入の上限を指し、年収が130万円を超えると扶養から外れて、社会保険料を自己負担する必要が生じる基準です。そのため、パートやアルバイトで働く方の中には、扶養を外れないように就業調整を行うケースもありました。しかし、令和7年度税制改正に伴う制度見直しによって、「130万円の壁」についても一時的な収入増であれば扶養から外れない仕組みが導入されます。

具体的には、繁忙期の残業や一時的な労働時間の増加により年収が130万円を超えてしまった場合でも、事業者が「一時的な収入増である」ことを証明する書類を作成し、被扶養者の親などが加入している健康保険組合に提出すれば、扶養認定が継続されます。

ただし、この仕組みはあくまで臨時的な措置とされており、事業者が「一時的な収入増」を証明できるのは原則として連続2回まで(毎年1回の収入確認がある場合は約2年間)に限られています。また、実際に「一時的な収入変動」に当たるかどうかは、各保険者が雇用契約書などの内容を踏まえて判断することになります。

出典:政府広報オンライン「「年収の壁」対策がスタート!パートやアルバイトはどうなる?」

3. 160万円の壁への変更による減税額

160万の壁への変更によって基礎控除の引き上げがどの収入層の所得税額にも影響することが分かっている

政府与党が示した試算表によると、基礎控除の引き上げはどの収入層の所得税額にも影響することが分かります。たとえば、単身世帯の場合、年収200万円では年間の減税額は2.4万円、年収400万円では年間2万円、年収800万円では3万円の減税が見込まれています。

世帯類型ごとの減税額(所得税)

引用:自民党「基礎控除の特例の創設について」引用日2025/08/19

夫婦共働き世帯においては、世帯構成に応じて控除額と減税額が異なります。たとえば、年収200万円ずつの場合はそれぞれ2.4万円、合計で4.7万円の減税効果、年収400万円ずつの場合はそれぞれ2万円で合計4万円、さらに600万円と200万円の組み合わせでは、それぞれ2万円と2.4万円の減税となり、合計で約4.4万円の減税となります。

なお、今回の改正では給与所得控除65万円と合わせて、非課税ラインを160万円にするため、基礎控除が最大95万円に引き上げられます。この基礎控除の上乗せは、年収が増えるにつれ縮小し、年収850万円超の給与所得者についてはなくなります。そのため、年収1,000万円以上の世帯の減税効果は限定的となり、限界税率を乗じた減税額として、2万円程度にとどまります。160万円の壁の導入による減税効果は、低~中所得層ほど恩恵が大きく、2万~3万円前後の軽減が見込まれます。

4. 160万円の壁への変更が企業に与える影響

160万円の壁への変更は企業にも様々な影響を及ぼすことになります

160万円の壁への変更は、従業員の働き方に直結するため、企業にもさまざまな影響を及ぼします。人手不足解消などのメリットが期待される一方で、社会保険料負担や事務対応の増加などのデメリットも生じます。ここからは、それぞれの側面について解説します。

4-1. 160万円への壁の変更が企業に与えるメリット

160万円の壁への引き上げは、企業にとって人材活用や労務管理の面でメリットをもたらします。

  • パートやアルバイトの就業調整が緩和され、人手不足軽減につながる
    年収の壁が引き上げられたことで、これまで「扶養を外れたくない」という理由で就業調整をしていたパートやアルバイトの従業員が、より長い時間働きやすくなります。特に、サービス業や医療・介護など、慢性的な人手不足に直面している業界では、シフトに多く入ってもらえることで、人材不足の軽減につながるでしょう。従業員の確保が容易になれば、サービス品質の低下を防ぐ効果も期待できます。
  • 賃上げによる従業員の定着率向上が期待される
    短時間労働者に賃上げを行いたくても、従来は「年収の壁」を理由に実現できないケースもありました。しかし、160万円の枠内で賃上げが可能になれば、従業員のモチベーションが向上し、結果として離職防止に寄与することが期待されます。ただし、「扶養の範囲内で働きたい」と考える従業員には、引き続き配慮が必要です。

4-2. 160万円への壁の変更が企業に与えるデメリット

160万円の壁への引き上げは、従業員にとって働きやすさを高める一方で、企業側には一定の負担が発生します。

  • 人事労務関連の事務負担が一時的に増える
    短時間労働者の労働時間や時給が変更された場合、誤支給を防ぐために給与計算システムを見直す必要があります。社会保険の加入条件を満たす従業員が発生した場合は、加入手続きも必須です。給与システムや社会保険加入などの対応には時間と労力がかかるため、人事労務部門の事務負担が一時的に増加する点はデメリットと言えます。
    また、就労条件を変更する際は、新しい条件を記載した雇用契約書を作成し交付することも求められます。短期的には事務負担が増えるものの、制度を整備することで長期的には人材の定着や労務管理の効率化につながる可能性があります。
  • 社会保険に加入すると企業負担分が発生する
    社会保険料は労使折半であるため、新たに加入する従業員が増えると、企業側にも社会保険料の負担が生じます。賃上げを行った場合は人件費だけでなく、社会保険料という恒常的なコストも増加します。そのため、社会保険料も含めた人件費全体の増加を見越し、資金計画を事前に立てることが大切です。

5. 年収の壁の変更にあたって企業が対応するべきこと

年収の壁が引き上げられることで、従業員の働き方や企業の労務管理にも影響が及びます。企業は制度改正に対応するため、助成金の活用や配偶者手当の見直し、雇用契約や福利厚生の調整など、複数の観点から対策を講じる必要があります。

5-1. キャリアアップ助成金の社会保険適用時処遇改善コースを活用する

キャリアアップ助成金「社会保険適用時処遇改善コース」は、社会保険を適用する際に収入増を実現した事業主に、労働者1人あたり最大50万円が助成されます。メニューは3種類あり、手当等支給メニューでは社会保険適用時に手当を支給する場合が対象となり、労働時間延長メニューでは週の所定労働時間を4時間以上延長させた場合に助成されます。

また、併用メニューでは、1年目に手当支給、2年目に労働時間延長を組み合わせた場合に助成を受けられます。なお、いずれも活用にはキャリアアップ計画書の作成・提出が必要です

※ 助成金を受けるためには労働者要件、企業要件、選択するメニューごとの具体的要件を満たす必要があります。企業として活用を検討する場合、都道府県労働局またはハローワークが相談の窓口となります。

出典:厚生労働省「キャリアアップ助成金社会保険適用時処遇改善コース」

出典:厚生労働省「「年収の壁・支援強化パッケージ」に関するQ&A(キャリアアップ助成金関係)」

5-2. 配偶者手当を見直す

配偶者手当は、従業員の就業調整を促して「年収の壁」を作る要因の1つとされています。配偶者手当の収入基準を超えないように勤務を控える動きがあれば、労働力の低下につながりかねません。

少子高齢化で生産年齢人口が減少する中、人材不足が深刻化している現状では、配偶者手当の在り方を見直すことも重要です。手当を縮小・廃止して基本給や子ども手当、資格手当へ振り替えるなど、制度全体を工夫することで、共働き世帯や独身者を含め、幅広い人材が活躍できるでしょう。

出典:厚生労働省「配偶者手当を見直して若い人材の確保や能力開発に取り組みませんか?」

5-3. 従業員の希望にあわせて雇用契約を見直す

103万円の壁の引き上げにより、従業員の労働時間や社会保険加入の条件が変わる場合は、雇用契約の見直しが必要となります。人事・労務担当者は、従業員の希望や業務内容にあわせて労働時間や賃金を調整し、社会保険の加入条件を満たす従業員については、速やかに手続きを行いましょう。また、変更点を明記した雇用契約書を作成・提示し、従業員の理解と合意を得ることで、トラブルを防止できます。

5-4. 福利厚生を活用した「第三の賃上げ」を行う

103万円の壁が160万円に拡張されたことで、従業員がより働きやすい環境は整備されつつあります。それでも「年収上限を意識せざるを得ない」と感じる従業員がいる場合は、福利厚生を活用した「第三の賃上げ」が有効です。

「第三の賃上げ」とは、給与そのものを引き上げるのではなく、福利厚生サービスの導入や充実を通じて、実質的な手取り収入を増やす方法を指します。給与を上げれば税金や社会保険料が増加し、手取り額への反映が限定的になります。しかし、福利厚生であれば非課税扱いとなるものもあり、従業員にとって収入が減らないというメリットがあります。

企業側にとっても、福利厚生費として経費処理できるため法人税の負担軽減につながり、社会保険料の増加を抑える効果が期待できます。さらに、従業員の満足度向上、離職率低下、採用力強化といったさまざまな副次的効果も生むでしょう。

このように、福利厚生を利用した第三の賃上げは、従業員と企業双方にとってプラスとなる実効性の高い施策と言えます。

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まとめ

令和7年度税制改正により、103万円の壁が160万円へと引き上げられました。従業員が働きやすくなる一方で、企業には人事・労務面で新たな対応が求められます。経済的な負担を軽減したいときはキャリアアップ助成金を活用しながら、配偶者手当の見直しや雇用契約の調整などを行いましょう。

さらに、福利厚生を活用した「第三の賃上げ」を導入すれば、従業員の実質的な手取りを増やしながら、満足度向上や採用力強化を図れます。

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