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ファシリティマネジメント(FM)とは?意味や業務範囲・成功事例を解説

ファシリティマネジメント(FM)とは?意味や業務範囲・成功事例を解説

2025年09月26日掲載
※ 記載された情報は、掲載日現在のものです。
ファシリティマネジメント(Facility Management)の意味を解説

近年、働き方改革や防災対策、環境配慮などの社会的ニーズが高まりを受け、オフィスや設備の運用方法は企業の競争力を左右する重要な要素となっています。しかし、「施設管理が属人化していて全体像が把握できない」「設備や空間にかかるコストが見えづらい」という課題を抱える企業は少なくありません。こうした問題を根本から解決し、経営戦略の一環として空間や資産を最適に活用する手法である「ファシリティマネジメント」が注目されています。

当記事では、ファシリティマネジメントの基本概念やメリット、具体的な業務内容、成功事例などを分かりやすく解説します。

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1. ファシリティマネジメントとは

「ファシリティ」は、土地・建物・設備・備品といった固定資産を意味する言葉

ファシリティマネジメント(FM)とは、企業や団体が保有または使用する施設とその環境を、経営戦略の視点から総合的に企画、管理、活用する経営活動を指します。「ファシリティ」は、土地・建物・設備・備品といった固定資産を意味する言葉です。

建物の保全や修繕を行う従来の施設管理と異なり、FMはICTや専門的な手法を駆使して「よりよいあり方」を追求し、経営効果の最大化とコストの最小化を図ります。

対象となるファシリティは、オフィスや医療施設、学校、インフラなど多岐にわたり、建物や設備だけでなく、その運用や維持も含まれる点がFMの特徴です。人事・財務・ICTなどと並ぶ経営基盤の1つとして、組織の持続的な成長を支える役割を担います。

1-1. ファシリティマネジメントとプロパティマネジメントの違い

ファシリティマネジメントは、企業や団体が保有または使用する施設全体を経営戦略の視点から最適に管理、活用する活動であり、建物だけでなく、設備や空間、環境全体を対象とします。一方、プロパティマネジメント(PM)とは、不動産オーナーに代わって物件の管理や運営を行う業務全般を指します。たとえば、テナントの募集や契約管理、賃料回収、設備点検、修繕対応、税務・法務のサポートなどの業務が含まれます。

プロパティマネジメントが物件所有者の収益最大化を目的とする「所有者視点」の活動であるのに対し、ファシリティマネジメントは経営資源の有効活用を目指す「経営者視点」の活動です。両者は管理対象や目的、視点において明確な違いがあります。

【ファシリティマネジメントとプロパティマネジメントの違い】

ファシリティマネジメント(FM) プロパティマネジメント(PM)
定義 企業・団体等が組織活動のために、施設とその環境を総合的に企画、管理、活用する経営活動 不動産オーナーに代わり、物件の運営・維持・収益管理を総合的に担う業務
視点 経営者視点 所有者視点
管理対象 建物・土地・設備・備品・執務空間・居住空間などの施設全般 物件そのもの(建物・区画・設備)およびテナント・入居者との契約や収益管理
主な目的 経営目標達成に向けた保有資産の最適化 施設の稼働率向上、安定した収益の確保
業務内容 経営戦略から将来の投資計画まで深く関与し、組織全体の最適化を図る 物件単位で運営を最適化し、オーナーの収益目標を実現する

1-2. ファシリティマネジメントが注目されている背景

かつて日本では、老朽化した建物を建て替える「スクラップ&ビルド」が主流の考え方でした。しかし、バブル崩壊後は資金調達が困難になったことからコスト削減の意識が高まり、東日本大震災を機に建物の安全性や持続可能性を重視する動きが加速しました。

さらに、少子高齢化による労働力不足、気候変動などの社会問題の深刻化に加え、テクノロジーの急速な進化や災害リスクの顕在化など、企業を取り巻く環境は大きく変化しています。こうした背景を受け、働き方改革やDXの推進、BCP対策、ESG経営など、企業には柔軟かつ持続可能な経営が求められています。施設とその環境を戦略的に管理、活用するファシリティマネジメントは、単なるトレンドではなく、企業が持続的に成長するための経営戦略として重要性が高まっています。

2. ファシリティマネジメントのメリット

ファシリティマネジメントを導入することで、コストの最適化や資産価値の維持、経営環境の変化への柔軟な対応など、さまざまなメリットが得られます。ここからは、ファシリティマネジメントの導入により期待できるメリットを説明します。

2-1. コストを最適化できる

ファシリティマネジメントでは、修繕費や光熱費、故障による機会損失など、さまざまなコストの最適化を図れます。たとえば、老朽化した設備を放置した場合、突発的な故障によって高額な修繕費が発生する恐れがあります。ファシリティマネジメントで計画的に設備を更新すれば、予期せぬ出費を防ぎ、維持費用の平準化が可能です。また、計画した更新タイミングで消費電力の少ない最新の省エネ機器を導入すれば、光熱費を抑えることもできます。

また、オフィスのスペースを実際の人員に見合う規模に調整することで、未使用の余剰スペースが減ります。これを機会にオフィスの移転、縮小を行えば、その分の賃料を削減することもできます。施設管理費は人件費に次ぐ大きな固定費であるため、ファシリティマネジメントを通じた見直しは、健全な経営基盤を支える施策となるでしょう。

2-2. 資産価値を保てる

建物や設備は時間の経過とともに劣化し、資産価値も下がります。しかし、ファシリティマネジメントによって定期的なメンテナンスや適切な管理を行えば、劣化の進行を抑え、建物の耐久年数を延ばせます。

これによって、減価償却による帳簿上の価値(簿価)の下落に対しても実態価値を維持しやすくなり、売却時に購入時よりも高い価格で売却できる可能性が高まります。未確定ながら、利益が見込める状態(含み益)を生み出すことも期待できるでしょう。設備や空間の状態が良好であれば、空きスペースをテナントとして貸し出して収益化することも可能かもしれません。

資産価値の維持・向上は、企業の財務基盤の強化に直結する施策であり、長期的な経営戦略の一環としても有効です。

2-3. 長期的な経営環境の変化に適応しやすくなる

ファシリティマネジメントによって、経営環境の変化に柔軟に対応する基盤を整えられます。たとえば、感染症対策や脱炭素社会への対応など、社会的な要請に応じて設備や施設を都度見直すことで、企業は社会からの信頼を獲得し、持続的な成長を実現できるでしょう。

また、フリーアドレスやABW(Activity Based Working)など、多様化する働き方に対応するオフィス環境を構築することは、業務効率化や従業員の満足度の向上に寄与し、結果として企業全体の競争力強化につながります。急速に移りゆく経営環境の中で「変化への対応力」を高めることは、今や企業にとって欠かせない戦略的な要素と言えます。

2-4. 生産性を向上できる

ファシリティマネジメントにより従業員にとって快適な労働環境を整えることで、生産性の向上が期待できます。たとえば、適切な照明は眼精疲労を軽減し、防音性の高い空間設計は騒音ストレスを抑制します。また、快適な室温や空気質は集中力の維持に寄与します。共用のリフレッシュスペースを設ければ、従業員同士の交流を促進し、モチベーションやチームワークの向上を図れます。

一方、老朽化した設備を放置すると、突発的な故障による業務の中断で生産性の低下を招く恐れがあります。計画的な修繕や機器の更新によって業務中断リスクを防げば、スムーズで安定した業務遂行が可能になります。快適で整備された職場環境は、従業員の健康を維持し意欲を高め、結果的に企業活動全体の効率性向上につながるでしょう。

2-5. CSR活動につながる

ファシリティマネジメントは、省エネ設備や再生可能エネルギーの導入を通じて、CSR活動にも大きく貢献します。たとえば、照明や空調設備を省エネ機器に更新してエネルギー使用量やCO₂排出量を削減できれば、脱炭素社会への貢献や環境汚染の抑制につながります。CO₂排出量の削減への取り組みは、サステナビリティを重視する環境経営の一環として社会的評価を高め、株主や顧客、地域社会からの信頼を得られるでしょう。

さらに、社員が快適かつ柔軟に働ける環境を整えることは、社内への配慮が行き届いた企業としての好印象を与える要素となります。企業イメージ向上や持続可能な経営の実現において、ファシリティマネジメントはCSRの重要な実践手段と言えるでしょう。

3. ファシリティマネジメントのレベルごとの業務範囲

経営レベル/管理レベル/日常業務レベル

ファシリティマネジメントは、経営・管理・日常業務の3つのレベルに分類できます。それぞれのレベルが連携して機能することで、組織全体の最適化が図られます。ここからは、各レベルごとの業務範囲について説明します。

3-1. 経営レベル

ファシリティマネジメントにおける最上位の「経営レベル」では、全社的な視点でファシリティの統括的かつ戦略的な最適化を図ります。この段階では、どの施設をどのように改善するか、どれくらいの予算をかけて進めるのかといった全体方針を策定し、経営目標に沿った計画を立てます。

将来の事業展開やビジョンに基づき、物理的なリソースの配置や施設改修の方向性を定める必要があります。そのため、経営レベルはファシリティマネジメントの起点であり、全体の成否を左右する重要なフェーズと言えます。

3-2. 管理レベル

「管理レベル」は、経営レベルで定められた戦略や計画をもとに、施設や設備をどのように効率化・最適化するかを具体化する段階です。たとえば、施設の改築時は使用する資材や発注先、設備の入れ替え範囲などを明確にし、業務の進行と同時にコストや効果の評価も行います。

このレベルでは、利用部門のニーズも踏まえながら、施設の状態改善に必要な調整力と実行力が求められます。実行計画の中核を担う、橋渡しのような役割を果たす段階です。

3-3. 日常業務レベル

「日常業務レベル」では、改修された施設や導入された設備を、清掃・保全・修繕といった日々の運用業務を通して管理し、常に良好な状態を保つことが求められます。新設備の使い方に関するレクチャーや、修繕・点検スケジュールの管理などもこの段階に含まれます。

継続的な管理体制を築くことは、建物や設備の劣化を抑制し、ライフサイクルコスト(LCC)の最適化にもつながります。実務に最も近い現場レベルであり、安定した施設運用を支える基盤となります。

4. ファシリティマネジメントの具体例

ファシリティマネジメントにはさまざまな実践例があります。ここでは、設備のメンテナンスやBCP(事業継続計画)対策、オフィス環境改善、省エネ化など、代表的な取り組みを紹介します。

4-1. 施設や設備のメンテナンス

ファシリティマネジメントでは、施設や設備の定期点検や修繕計画の立案を通じて、劣化や故障によるリスクを未然に防ぎます。たとえば、空調や電気設備などの不具合を早期に発見し対応することで、高額な修繕費の突発的な発生を抑え、資産価値を維持します。設備の更新や交換のほか、オフィス内の清掃や衛生管理、アメニティなどの備品管理、福利厚生施設の物件管理も必要です。

福利厚生施設の管理業務を社内だけで対応しきれない場合や、自社で福利厚生施設を用意するコストやリソースがない場合は、福利厚生に関するアウトソーシングサービスを利用するのも一案です。KDDI まとめてオフィスの「まとめて福利厚生」を利用すれば、日常生活のさまざまなシーンで140万点以上の優待や特典を受けられるようになります。

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4-2. BCP対策

ファシリティマネジメントを通して施設の耐震性・耐火性を高めたり、非常時の避難場所の確保や備蓄品の整備を行ったりすることで、災害発生時の被害を最小限に抑えられます。また、施設内の安全性を確保するためには、入退室管理システムや監視カメラの設置といった物理的セキュリティ対策も必須です。こうした備えで社員の安全を守り、業務を早期再開させることが可能になります。

BCPとファシリティマネジメントは「継続する企業経営」という共通の目的に向けて連携すべき要素です。日常の施設管理とあわせてBCP対策に取り組むという意識を持つことが、企業の持続的な成長につながるでしょう。KDDI まとめてオフィスでは、BCP対策やセキュリティ対策に関する課題を一括して解消することが可能です。

4-3. オフィスのレイアウト変更・スペース最適化

オフィスのレイアウト変更やスペースの最適化は、業務効率の向上や従業員の満足度向上に直結する、ファシリティマネジメントの一環です。たとえば、移動の無駄を減らし、人が自然と集まりやすい導線を設計することで、業務の効率化と社員同士の会話・交流の活発化が期待できます。加えて、フリーアドレス制やオープンスペース、ABW(Activity Based Working)などを導入すれば、部署を越えたコミュニケーションやアイデアの共有が促進され、偶発的な出会いや対話を通じて、新たな商機が生まれる可能性も広がります。

また、在宅勤務の普及により使用頻度が低下したスペースをリフレッシュエリアや集中ブースとして再構成することで、無駄なく有効にスペースを活用できます。温度管理や照明環境の整備も取り入れ、集中力や健康面に好影響が及べば、生産性だけでなくエンゲージメントの向上にもつながるでしょう。

4-4. 省エネ対策

従来の設備をメンテナンスしながら活用することも大切ですが、現代では社会の要請に応え、より環境にやさしい設備へ更新することも求められています。たとえば、LED照明への切り替えや照明の自動制御、空調管理システムの最適化、再生可能エネルギーの導入、断熱・除湿性の高い建材の使用、節水装置の導入、廃棄物の削減といった施策が挙げられます。

省エネ対策は、エネルギー消費を抑えてランニングコストを削減するだけでなく、企業の環境配慮の姿勢を示す手段となります。CSRやSDGsへの取り組みとして評価されれば、社会貢献を通して企業イメージの向上を図れるでしょう。

5. ファシリティマネジメントのPDCA

PDCAに基づいた運用が基本

ファシリティマネジメントでは、業務の質を継続的に高めるために、PDCAサイクル(Plan・Do・Check・Action)に基づいた運用が基本となります。戦略と計画の立案からプロジェクト管理、運営維持、評価、改善に至る一連のプロセスを「統括マネジメント」が中心となって連携しながら進めることで、組織全体の最適化と持続的な改善が可能になります。

1 Plan(計画)
建物や設備の現状を正確に把握し、経営戦略と整合する計画を立てます。将来の事業展開を見据え、施設の活用方法や改修方針などを策定します。
2 Do(実行)
計画に基づき、具体的なプロジェクトを実施します。耐久性の調査、設備の更新、スペースの再活用などを通じて、運営改善を図ります。
3 Check(評価)
実施内容がどの程度成果を上げたかを定量的に評価します。コスト削減の効果、業務効率の変化、従業員満足度の調査など、客観的なデータに基づく分析が必要です。
4 Action(改善)
評価結果をもとに、問題点の抽出と改善策の検討を行います。改善案は次の計画(Plan)に反映し、PDCAサイクルを再び回すことがポイントです。

6. ファシリティマネジメントに資格は必要?

ファシリティマネジメントは法的に資格は必要ないため、施設管理やオフィス運営の実務経験があれば業務を遂行できます。ただし、より高度な専門知識と実務能力を証明したい場合は、「認定ファシリティマネジャー(CFMJ)」資格の取得を検討してもよいでしょう。

認定ファシリティマネジャー(CFMJ)は、FM戦略やプロジェクト管理、財務・品質評価など、実務に必要な知識とスキルを体系的に学べる資格です。試験の合格率は2024年度で約44.6%と、一定の難易度を持ちつつも十分にチャレンジできる水準です。CFMJ資格を取得することで、ファシリティマネジメントの実務能力を強化できるだけでなく、社内外からの信頼を得やすくなり、業務上の説得力も高まるでしょう。

★KDDI まとめてオフィスは、ファシリティ業務に関連する各種資格取得を支援するサービスの提供などは行っておりません。

出典:公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会「認定ファシリティマネジャー資格」

7. ファシリティマネジメントの成功事例

ここでは、ファシリティマネジメントの成功事例として、FPTジャパンホールディングス様を紹介します。

FPTジャパンホールディングス様は、社員数の急増とコミュニケーションの課題を背景に、オフィスの移転・リニューアルを実施しました。KDDI まとめてオフィスと連携し、オープンレイアウトの導入や多様なワークスペースの整備、監視カメラや入退室管理システムなどのICT設備を一括導入。また、ガラス張りの会議室や多国籍文化に対応したパントリー、リラックス設備も整備しました。

新オフィスでは、部門や職種を越えたコミュニケーションが活性化し、意思決定や業務の進行がスムーズになりました。また、先進的で多様性に富んだオフィス空間は、商談やセミナーで訪れるお客さまに強い印象を与え、成長力や企業文化を直接体感してもらえる場となりました。その結果、お客さまからの信頼や共感を得やすくなっており、今後の継続的な取引や新たなビジネス機会の創出に結びつくのでは、と期待しています。

まとめ

ファシリティマネジメントは、単なる維持管理ではなく、経営目標の達成を支える戦略的な活動です。単なるコストの適正化にとどまらず、資産価値の維持、環境対応、従業員満足の向上など、多角的に経営へ貢献できるのが特徴です。今後、変化の激しい社会において企業が生き残るために、ファシリティマネジメントの取り組みが必要不可欠となるでしょう。

KDDI まとめてオフィスでは、空間設計からネットワーク環境の構築、セキュリティ対策、デバイスの手配、オフィス什器などの設備選定まで、すべてワンストップでサポート可能です。ご検討中の方はぜひお気軽にご相談ください。

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